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警官と市民の間に根深い不信が横たわるアメリカ社会の絶望
全米に広がった今回の暴動の背景にあるのは「人種差別」だけではない Jonathan Ernst-REUTERS
<21世紀のハードボイルドの主人公は、絶望した人々に囲まれてまっとうに生きようとするシングルマザー>
5月25日、ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドが白人警官に喉を押さえつけられて死亡する事件があった。地面に押さえつけられたフロイドが「息ができない」と訴え、周囲の目撃者たちも「もう動いていない。やめなさい」と抗議しているのに押さえつづけた動画がインターネットで広まった。
その後起こった抗議デモは、当初は平和的なものだったが、過激化して放火や略奪などの暴動にエスカレートした。フロイドを押さえつけた警官は逮捕・起訴されたが、5月30日現在でも暴動は収まっておらず、州知事は白人優越主義団体や麻薬組織などの部外者が暴力に関わっている可能性があることを語った。
日本に住む日本人には、ミネアポリスの暴動を理解するのは難しいと思う。これは、独立したひとつの事件ではなく、アメリカ独自の歴史と社会構造により蓄積し、爆発寸前になるまで抑え込まれた憤りがあるのだ。
この連載でご紹介した次のような本を読んでいただけば、蓄積した憤りが少しはわかるかもしれない。
<参考記事:アメリカで黒人の子供たちがたたき込まれる警官への接し方>
<参考記事:白人が作った「自由と平等の国」で黒人として生きるということ>
だが、この暴動の背景にあるのは「人種差別」だけではない。アメリカ市民が警官に対して抱く強い不信感も影響している。
トランプ大統領の情熱的な支持者を説明するノンフィクションとしてベストセラーになった『ヒルビリー・エレジー』は、かつて重工業で栄えたが最近のアメリカの繁栄から取り残された地域の白人労働者の貧困と絶望を見事に説明している。
今年1月に発売されて即座にベストセラーになった小説『Long Bright River』は、『ヒルビリー・エレジー』のフィクション版と呼びたくなるほど同じ社会問題を扱っているが、それに加え、市民と警察との複雑な関係も描いている。
アメリカの貧困層の白人の絶望に拍車をかけているのは、オピオイド依存症だ(他の人種には少ない)。中西部だけではなく、アメリカのすべての地方と都市部でオピオイド依存症が恐ろしいほど蔓延している。
ドラッグに依存している者は、購入のために別の犯罪を犯したり、売春をしたりする。警察は、住民の安全や社会の秩序を守る正義の味方であるべきだが、処理しきれないほど多くの犯罪が起こる場所では、秩序を守るために汚職に手を染める警官も出てくる。
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