コラム

日系人収容所の体験からトランプの移民政策に警鐘を鳴らすジョージ・タケイ

2019年07月23日(火)20時00分

現在では社会活動家としても知られるジョージ・タケイ Monica Almeida-REUTERS

<『スタートレック』で「加藤」を演じたジョージ・タケイが、グラフィックノベルで強制収容の屈辱を伝える>

日本のテレビで1960年代に『宇宙大作戦』として放映された『スタートレック』が画期的だったのは、ハリウッドが白人の俳優しか使わなかったあの頃に、黒人女性を含む多様な登場人物を起用したことだ。当時小学生だった私はこの番組のファンだったのだが、ジョージ・タケイ扮するヒカル・スールー(日本語吹き替えでは加藤)には理屈抜きの誇りを感じたものだった。日本に住む私だけでなく、アメリカでも日系人であるジョージ・タケイが俳優として有名になったことは多くのアジア系アメリカ人に少なからぬ影響を与えた。

ジョージ・タケイは、独自のユーモアあふれるソーシャルメディアで若い世代にもフォロワーを増やし、今では社会活動家としても知られるようになっている。

タケイに興味がある人は、彼が第二次大戦中に日系人収容所に収容された体験を持つことを知っているし、彼の体験を元にしたミュージカル『Allegiance』で主役を演じるタケイを見ているかもしれない。彼らは、日系人収容所がどれほど非人道的なものだったのかをすでに想像しているし、その歴史を繰り返してはならないとも思っていることだろう。

だが、大半のアメリカ人はそういったことを知らないし、興味も抱かない。

だから、アメリカで今同じような過ちが目の前で起こっているというのに、何も感じないのだ。

現在アメリカで起こっている問題のひとつが、近隣の中南米から押し寄せて来ているきてる「亡命希望者(asylum seeker)」たちだ。国境で幼い子どもたちが親から引き離され、檻のような収容所に入れられている。そのコンディションは最悪で、アメリカに着いてから死亡した子供たちもいる。

多くのメディアが報じているが、保守系のFOXニュースのある司会者が「我々の子供じゃない」と本音を漏らしているし、それに眉もひそめないアメリカ人が実はかなりいる。

この「我々の子供じゃない(から、何が起こっても知ったことではない)」という態度は、「我々と同じではない者を自分と同じ人間とみなすことはできない」という冷酷な無関心に変換しやすい。その冷酷な無関心がある程度蔓延すると、第二次大戦中のナチスドイツによるユダヤ人の大虐殺のようなことが実際に起こる。ナチスドイツだけではなく、日本でも捕虜に残酷な人体実験を行った731部隊などの例がある(私の恩師のひとりが731部隊の一員で、本人が『私は戦犯として処刑されても不思議はなかった』と私に語ってくれた。彼の苦悩を知っているので、この史実が嘘だという反論を私は受け付けない)。

こういったことに最も敏感なのが子供たちだ。

私は7月19日現在までに民主党大統領候補16人のイベントに言って直接会い、話しを聴いた(20日に17人目に会う予定)。アメリカでは、それらに参加して候補に質問する子供も少なくない。これらの政治イベントでの子どもたちの質問の多くが、国境で親から引き離されて檻のような収容所に入れられている「亡命希望者」と「不法移民」の子供たちについてだった。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story