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先住民迫害の過去から目をそらすアメリカは変わるのか
アルコール依存症の母から生まれた胎児性アルコール症候群の男、資金提供を受けてインディアンとしての体験談をフィルムにしようとする若者、母に連れられてインディアンによるアルカトラズ島占拠に参加させられた姉妹、大学でインディアン文学を専攻したが就職口がなくて母の家で引きこもりになっている男、16歳のときにレイプされて生まれた娘を養子に出した女性、裕福な白人家庭に引き取られたためにインディアンとしてのアイデンティティーを後に得た女性、子育てを放棄した姉の孫たちを育てる女性、祖母が隠していたインディアンの衣装を取り出して身につける孫など多様だ。一見、何の関係もないような人々だが、インディアンのお祭りであるPow Wowで劇的に繋がる。
タイトルになっている『There There』は、通常はがっかりしている人や泣いている人をなだめるためにかける言葉だ。日本語なら「よし、よし」という感じだろうか。ラジオヘッドの有名な曲「There There」を連想するかもしれない。
だが、この小説のタイトルは、作家で詩人のガートルード・スタインの『Everybody's Autobiography』からの有名な引用「there is no there there(そこには、「あそこ」がない)」から来ている。1880年代にカリフォルニア州オークランドで子供時代を過ごしたスタインは、1935年に45年ぶりに故郷を訪問した。だが、オークランド市はスタインの子供時代から10倍の大きさに成長しており、牛や馬がいた懐かしい「あそこ」の風景が消えていた。その切なさが、「there is no there there」という表現になったのだ。
作者のオレンジもオークランドに住んでいる。この地に住むインディアンは、インディアン保留地ではなく都市を選んだ者だ。だからといって、彼らのすべてが同じ理由でここに住んでいるわけではない。そして、インディアンというアイデンティティーに対する考え方も、プライドも異なる。
そもそも、「先住民」の呼称についても、一致してはいない。アメリカの白人は、ポリティカル・コレクトネスで「Native American(ネイティブ・アメリカン/アメリカ先住民)」と呼ぶが、自分たちをそう呼ぶインディアンなどいないとオレンジは書いている。彼らの間では、Nativeという呼び方が多いようだ。私の別の記事について「インディアンという呼び方はしてはならない」と忠告した日本人がいたが、Indianも彼ら自身が選んで使う呼称だし、公式文書にも使われている。尋ねる人によって、それぞれの呼称に対する考え方は異なるのだろう。
そういったことも含めて、この小説に描かれているインディアンの歴史や文化、生活を、アメリカに住む私たちはほとんど知らない。マジョリティの白人だけでなく、移民や黒人についての本は沢山あるのに、この国に最初から住んでいた生粋のアメリカ人を伝える本は少ないし、あまり読まれていない。
それを、オレンジのこの本は変えてくれそうだ。
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