コラム

男女双方のストレス軽減を目指す「フェミニズム第3世代」

2016年01月27日(水)16時00分

 私の女友達に代表される第2世代のフェミニストは、むかしのスローターのように「頑張れば女性も高い地位の職に就けるし、家庭だって持つことができる。できないとしたら、それは『どうしても達成したい』という熱意や努力が足りないからだ」と信じ、年下の女性たちに努力を要求してきた。けれども、彼女たちの娘の世代は、その期待を重圧だと感じ、古いタイプのフェミニズムに対して反感を抱くようになっているのだ。

 シェリル・サンドバーグが提唱したのもそうだが、本書が提唱するのは、こうした第1、第2世代を経てたどりついた、理想と現実のバランスを重視した「フェミニズム第3世代」とも言える考え方だ。

 現実を見れば、妻のほうが高収入で高い地位についている夫や、専業主夫になった男性は、男性からも女性からも差別される。この差別は、ある意味教授や重役をめざす女性に対するものより厳しく、辛いものだ。だから、家で家事や育児に専念したくても、男性はなかなかそれを選ぶことができない。男性に対してもステレオタイプの重圧があると、本書は指摘している。

 また職業差別も、バランスがある生き方を妨げているという。

 私たちは、弁護士、教授、医師、投資銀行家、企業の重役といった職に就いた人を何の疑問も抱かずに「成功者」とみなし、尊敬する。そして、保育士、看護師、教師(給与が低いアメリカの場合は、日本よりも低い地位とみなす傾向がある)といった、他人の世話をする大切な職業の人を見下す傾向がある。お金を動かすだけの仕事が、子どもや病人の世話をする仕事よりも重要なわけはないのだが、収入の差が偏見を強めている。だから、つい高い地位に就くためにlean inしないことを「熱意や努力が足りない」とみなしてしまうことがある。

 でも、スローター自身が体験したように、家族の世話をする(子育てを含む)のは簡単な仕事ではない。ふつうの仕事よりも難しいことが多々ある。そして、とても満足感もある仕事だ。

 女性だけでなく、男性だって仕事と家庭の両方を楽しみたいのだ。

 働く女性が抱える問題は、「女性の問題」とよく片付けられてしまうが、そうではない。男性にも影響がある。男女を対立させるのではなく、男女がそれぞれ押し付けられてきた重圧を軽減するような「男女平等」を実現させるためにはどうしたらいいのか?

 スローターが本書で提言しているのは、男女両方のための新しいタイプのフェミニズムだ。これから結婚するカップルは、本書を読んでじっくり語り合ってみるといいだろう。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、新たな対ベネズエラ制裁発表 マドゥロ氏親族や石

ワールド

日米が共同飛行訓練、10日に日本海で 米軍のB52

ビジネス

テスラ11月米販売台数が4年ぶり低水準、低価格タイ

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P最高値更新、オラクル株急
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 5
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 9
    ピットブルが乳児を襲う現場を警官が目撃...犠牲にな…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story