コラム

演出の派手さを競う北朝鮮問題

2017年04月29日(土)11時45分

制裁の強化という選択肢しかない

ここまで北朝鮮問題について、考えられうる可能性のあるシナリオを検討してみたが、いずれも実現可能性が乏しく、北朝鮮問題を解決する決定打とはなり得ないと言わざるを得ない状況である。もちろん、これらは筆者の足りない知恵で考えたシナリオであり、他にも様々な可能性があるかもしれない。しかし、現実的に実現しそうなケースとしては、これまでの延長でしかないが、やはり制裁を強化し、北朝鮮に圧力をかけ続けることしかないように思われる。実際、トランプ政権も様々な手を打ち、これまでの「戦略的忍耐」の時代は終わったと高らかに宣言したが、結果的にやっていることは、オバマ政権の延長線上にしかなく、制裁の強化というところに落ち着くとみられる。

ティラーソン国務長官の国連安保理での演説では、制裁強化のテーマとして、(1)既存の制裁(安保理決議2270号および2321号)の完全なる履行、(2)北朝鮮との外交関係の停止、(3)北朝鮮を金融的に孤立させること、の三つを挙げている。とりわけ制裁の余地があるのは(3)の金融制裁であろう。これまでアメリカはマカオにあるバンコ・デルタ・アジア(BDA)の制裁で北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源を絞り、それが6ヶ国協議の進展に寄与したが、その見返りも含め2007年に制裁を解除してしまった。その後、北朝鮮はまた核・ミサイル開発に邁進したのは周知の通りだが、改めて金融制裁を強化することで、その効果を期待しているものと思われる。ただ、BDAの一件以来、北朝鮮は国際金融システムへの依存による脆弱性は強く意識しており、銀行間決済ではない、様々な決済手法を開発することで、金融制裁に対する耐性を高めている。その意味ではこの時点で金融制裁を強化しても(すでにアメリカは独自制裁によって北朝鮮の主要な金融機関を制裁対象としている)、その効果は期待したとおりにはならないであろう。

また、中国がアメリカからの圧力だけでなく、北朝鮮の核開発による地域秩序の崩壊を懸念して、核・ミサイル開発の阻止に本腰を入れ、(1)に掲げられた安保理決議の完全なる履行に積極的になることも期待されている。実際、中国は北朝鮮の石炭の輸入を停止し、また平壌市内のガソリンスタンドでの供給制限がかかっていることから北朝鮮向け石油の輸出も制限しているのではないかとみられている。このように、北朝鮮の経済に死活的な役割を果たす中国が制裁に本腰を入れれば、その効果はかなりの程度期待できるだろう。

しかし、北朝鮮はこれまでも厳しい制裁の中で核・ミサイル開発に必要な部品や技術を調達し、中国以外のルートも着々と開発していることは国連の北朝鮮制裁専門家パネルの報告書でも論じられている。果たして中国の制裁強化がどこまで効果をもたらすのか、また仮に効果が出たとしてもそれが北朝鮮の行動を変化させる結果をもたらすのかは定かではない。

いずれにしても、現実的な問題解決の可能性が制裁の強化しかなく、その効果は不確実なものではあるが、引き続き北朝鮮に圧力をかけ続け、その行動を変化させるだけの力となり得るか、それとも北朝鮮が核兵器の小型化を成し遂げ、アメリカに届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を先に成功させるか、という段階に来ていることは間違いないであろう。制裁によって核兵器の開発を遅らせることは出来たとしても、これまでの北朝鮮の行動を見る限り、市民生活よりも軍備強化を優先する「先軍政治」ならぬ「先核政治」を貫く姿勢がそう簡単に変化するとも思えない。制裁によって市民生活が脅かされたとしても、世界で最も強力な抑圧的体制をしく北朝鮮が、イランのように選挙によって強硬派のアフマディネジャド大統領から制裁解除と経済改革を目指す穏健派のロウハニ大統領に権力移行させたような体制変革を起こすことはおよそ想像出来ない。そうなると、当面は「戦略的忍耐」を継続し、北朝鮮の指導部がこのままでは体制が維持できないという状況になるまで、制裁を通じて圧力をかけ続け、核の小型化とICBMの開発の前に音を上げることを忍耐強く待つのが、現状では最適解なのだろう。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米シティ、第1四半期の投資銀行と市場収入は10%台

ワールド

ロシア産原油、イラン戦争で大幅価格上昇 コストも増

ビジネス

印インディゴ、CEOが引責辞任 昨年末の大量欠航で

ビジネス

オラクル、通期売上高見通しが予想超え AI収益化巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 6
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story