コラム

演出の派手さを競う北朝鮮問題

2017年04月29日(土)11時45分

REUTERS/Damir Sagol

<北朝鮮問題について、様々なレトリックやノイズを排して、実際に起こっていることと、これから起こりうることを整理してみたい>

米中首脳会談を前にした四月上旬、北朝鮮がミサイル発射実験を行ったことをきっかけとして、にわかに北朝鮮問題が大きく取りざたされ、連日米国の対応や北朝鮮の動向が報じられ、多くの論者がコメントをしている。ただでさえ謎めいた行動が多く、先が読めない北朝鮮の行動に加え、過激なレトリックと派手な行動を好み、さらには米中首脳会談の最中にシリアにミサイル攻撃を仕掛け、アフガニスタンにはMOABと呼ばれる強力な爆弾を投下し、空母カール・ビンソンを中心とする第一空母打撃群を派遣したトランプ政権の予測不可能性が加わって、とりわけ日本では大きな注目を集めている。

しかし、北朝鮮と相対する韓国では、情勢の変化よりも目の前の大統領選に大きな関心が集まり、THAADをはじめとするミサイル防衛に関しては国内でも批判が根強い。また、トランプ政権は外交分野では北朝鮮問題への関心が高いが、同時にトランプ大統領が韓国とのFTAを破棄するとか、韓国にTHAADの費用を負担させるといった発言をしており、どこまで同盟国と協力してこの問題を解決しようとしているのか、よくわからない状況にある。

こうした様々な事象を追いかけていくと、あまりにも事態の推移が早く、また関係各国の足並みも揃っておらず、トランプ政権の行動も理解しがたい状況の中で、先行きの見えない不安ばかりが募る状況となっている。ここでは様々なレトリックやノイズを排して、実際に起こっていることと、これから起こりうることを整理してみたい。

トランプ大統領は北朝鮮を攻撃するのか?

現在、喫緊の問題としては第一空母打撃群を派遣し、軍事的圧力を強めているトランプ政権が北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するために先制攻撃を仕掛けるかどうか、ということがある。シリアやアフガニスタンで武力行使を行い、これまでの「アメリカ・ファースト」に基づくアメリカ国外での紛争には介入しないという原則を崩したトランプ政権は、自らの脅威となり得る北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するために攻撃する可能性が出てきたと考えても不思議ではない

しかし、北朝鮮への先制攻撃はシリアへのミサイル攻撃とは状況が大きく異なっている。シリアにはアメリカやその同盟国に対する有効な反撃能力はなく、また内戦状況が続く中でアメリカの同盟国であるイスラエルを巻き込んだ紛争に発展することは、これまでもずっと避けてきた。つまり、シリアに攻撃を仕掛けてもアメリカにとって失うものがない状況であった。これはアフガニスタンでも同様である。

ところが北朝鮮は朝鮮人民軍創設85周年となる4月25日に「創設以来最大規模」と北朝鮮が誇らしげに主張する大規模な火力演習を行い、通常兵器であっても38度線を越えて大量の砲弾を韓国に浴びせることが可能であることを誇示し、先制攻撃に対して韓国の首都ソウルや在韓米軍基地に反撃する姿勢を見せている。また、移動式の中距離弾道ミサイルのスカッドERや北極星などはすでに一定の発射実験の成功を見せており、これらがアメリカの先制攻撃を逃れることが出来れば、韓国のみならず日本や在日米軍基地も報復の対象となる可能性もある。つまり、北朝鮮への先制攻撃によって失うものは大きすぎる。そのリスクを背負って先制攻撃をすることは、いかにトランプ政権といえども簡単に判断することはできないであろう。

プロフィール

鈴木一人

北海道大学公共政策大学院教授。長野県生まれ。英サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大大学院准教授などを経て2008年、北海道大学公共政策大学院准教授に。2011年から教授。2012年米プリンストン大学客員研究員、2013年から15年には国連安保理イラン制裁専門家パネルの委員を務めた。『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2011年。サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(共編者、日本経済評論社、2012年)『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(編者、岩波書店、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 7
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story