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安全保障貿易管理から見るデュアルユース問題
安全保障貿易管理の考え方
上述のように、防衛省が行うプロジェクトには参加しないことで目的は達成できるという認識が一般化されたが、現在、防衛省が進める「安全保障技術研究推進制度」によって、この認識が揺さぶられ、防衛省の資金を受け入れる是非が問われている。
しかし、本稿では少し視点を変えて議論をしてみたい。それは「科学研究が軍事的に利用されないためにはどうすれば良いか」という観点である。これまでは「軍事目的」という、出資者の意図が問題視されており、研究開発の結果が軍事的に利用される可能性についてはあまり論じられてこなかったと考えている。研究者は自らが研究し、公開した技術の行方をコントロールすることは原理的に出来ない。なぜなら、公開された研究成果は誰でもアクセスすることが出来、そのアイディアをミリタリーの研究者が知ることも妨げられないからである(もちろん特許などでその成果の利用を制限することは出来る)。
しかし、こうした技術が軍事的な野心を持った国家や団体(たとえば北朝鮮やテロリスト)に使われ、その結果として日本だけでなく世界の平和と安全を脅かすような結果になった場合、研究者がいくら「戦争目的の科学研究は行わない」と言っても、その技術が戦争目的に使われてしまうという結果を招いてしまう恐れもある。
そうならないように、デュアルユース技術の輸出を管理するのが安全保障貿易管理である。この考え方の前提には、日本国内ではそうした技術を悪用する存在は限られているが、世界にはそうした軍事的野心を持つ存在が多数存在しており、日本のように高度な技術力を持つ国家が国外に流出する技術を管理することで、軍事的野心を持つ存在に技術が移転されることを防ぐ、というものがある。また、軍事技術、とりわけ大量破壊兵器に転用可能な技術を持つ国同士が協力をして、これ以上、兵器を開発する国を増やさないようにするという不拡散の概念も前提となっている。
しかし、IT技術やロボティクスなど、デュアルユースの技術であってもシビリアンの技術が先行し、グローバルに展開するものが増えてきている。こうした中で、いかに安全保障貿易管理を進めていくのか、ということが大きな課題となっている。
安全保障貿易管理の仕組み
安全保障貿易管理では「戦争目的で使われる科学技術の成果」が国際的に拡散することを防ぐ仕組みである。しかし、戦争目的で使われる科学技術の成果など無数にある。そのため、兵器であってもある程度の優先順位がついている。それは最も拡散すべきでないものは大量破壊兵器、すなわち核・生物・化学兵器とそれらを運搬するミサイルである。そのため、これらの大量破壊兵器を開発・製造するために必要な資材や技術、工作機械、ソフトウェアなどの輸出を各国の輸出管理当局(日本の場合は経産省)が法令によって管理し(日本の場合は外国為替及び外国貿易法:外為法)、大量破壊兵器の開発・製造に用いられそうな場合は当局が輸出を許可しないということもあり得る。
大量破壊兵器に用いられる資材や技術などは、国際レジームと呼ばれる有志国家によって構成されるグループの協議によって定められる。たとえば核兵器の材料となる濃縮ウランを作るためには遠心分離機が必要であり、その遠心分離機の主要な部分である回転胴はアルミニウムで出来ているが、飲料缶に使われるような普通のアルミニウムではなく、非常に強度(Tensile strength:引っ張り強度)が強いものでなければ音速を超える回転に耐えられない。そのため、アルミニウムは規制の対象になるが、その規制の閾値は460Mpa(メガヘクトパスカル)である。このように、一定の性能を備えたものを規制対象とし、それ以外のものは大量破壊兵器には転用されないという前提で規制作りがなされている。
実際の規制の運用に関しては、その技術の輸出先が誰なのか(エンドユーザ)、そのエンドユーザの使用目的は何なのか(エンドユース)を輸出する企業がきちんと確認し、過去に大量破壊兵器の開発に関与したことがあるのか、もし過去の関与がないとしても今後そうした関与があり得るのか、大量破壊兵器の開発・製造・使用に関わる組織や個人が関与しているかどうかなどをチェックして、輸出管理当局が安全保障上の懸念のある輸出先には許可を与えない、という形で運用される。そのための国際情勢や軍事活動に関する情報収集や分析も各国のインテリジェンス機関などと協力して行っている。
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