最新記事
ウクライナ戦争

捕虜の80%が性的虐待の被害に...爪に針を刺し、犬に噛みつかせるロシア軍による「地獄の拷問」

THE STORY OF KIRILL, A RUSSIAN PRISONER

2024年12月5日(木)16時21分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

カムイシン拘置所の見取り図

拘置所の見取り図を描くキリル。23年6月に移されたカムイシン拘置所には63の監房があり、ウクライナの捕虜368人が収容されていた。キリルのいた22番監房からは看守部屋のテレビが見え、そこから外部の情報を得ていた。 TAKASHI OZAKI

7月5日、ウクライナ西部の古都リビウのバスターミナルにアンナとスビャトスラフ、ラリーサがいた。持ってきたのは10個の荷物。1人では運べないほど重いかばんをベルリン行きの長距離バスに押し込んだ。

国境ではポーランドの入国審査が入念で、長時間待機することになった。アンナはベンチに座り、最近キリルから来たメールを見せてくれた。


キリル〈ハニー、僕は元気だ。君と僕たちの恐竜(息子)を愛している。そこへ行って、抱きしめたい〉
アンナ〈こちらは大丈夫よ。脚はどうしたの?〉
キリル〈問題ない。いつも君のことを考えている〉

キリルは仲間が隠し持っていた携帯電話を借りてメールを送った。その携帯電話もオレニフカを出る時に没収され、この6月20日のメールが最後のやりとりになった。

2人が出会ったのは21年。母親同士が知り合いで、お見合いのような形で紹介された。翌年2月、ロシア軍による侵攻が始まったとき、キリルは製鉄所の工員として働いていた。

家族と共に地下壕で過ごすうち、「自分だけここで座っているわけにはいかない」と考え、アゾフ大隊に参加した。アンナは強く反対したが、キリルの意思は固かった。

国境で待つこと6時間。日付が変わる頃にやっと検問所を越えることができた。アンナは憔悴し「まるで『イカゲーム』ね」とこぼした。当時話題の韓国ドラマのように、進むも地獄、残るも地獄と感じたようだ。ドイツに入る頃に朝日が昇り、アンナは車内で授乳をした。

「いつもこの子が私に力を与えてくれる」。そう、自分を励ましていた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日製副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中