最新記事
デジタル大国

ゲーム請負人の自殺から「大炎上」...中国「太った猫」事件とは? お供えはフードデリバリー?

2024年7月11日(木)14時19分
高口康太(ジャーナリスト)
ゲーム請負で「太った猫」のハンドルネームを持つ劉の自殺現場にはデリバリーでお供えが

ゲーム請負で「太った猫」のハンドルネームを持つ劉の自殺現場にはデリバリーでお供えが DYL0807/SHUTTERSTOCK, RODEN WILMAR/SHUTTERSTOCK (CAT), ORIENTAL IMAGEーREUTERS (GAME)

<「ゲームキャラを育てる仕事」をしていた男性が「ゲームで出会った」女性に恋した末に自殺。この事件がSNSで拡散し、お供えに「フードデリバリー」が届く。炎上騒ぎに見る、デジタル大国中国のサイバーまみれな日常>

「まだまだ日本人が知らない 世界のニュース50」中国は今や世界をリードするデジタル大国だ。10年前だと「先進国の日本、すごい」と感動していた中国人たちが、「日本は不便だけど、時間がゆったりと流れていてほっとする」と別の形で感動するようになってしまった。

では、デジタル大国の日常とは果たしてどんなものなのだろうか。それを実感させる1つの事件が起きた。4月11日未明、重慶市で劉傑(リウ・チエ、男、20歳)が自殺した。彼の仕事はゲームキャラクター・トレーナー。他人のキャラクターをレベルアップさせて報酬をもらう、低賃金、長時間労働のきつい仕事である。


劉は昨秋、ゲームで知り合った女性と恋に落ち、湖南省からはるばる引っ越してきた。引っ越し費用に彼女へのプレゼント、それに花屋の開店資金が欲しいという彼女の頼みを聞き続けた結果、すっからかんに。ついに残った金を全てチャットアプリの送金機能で彼女に送り、長江に身を投げた。

劉の姉がこの話をソーシャルメディアで公開すると、同情が広がり大騒ぎに。劉のハンドルネームから胖猫(パンマオ、太った猫)事件と呼ばれるようになった。

ネットユーザーたちは手向けとして投身自殺の場所にハンバーガーやタピオカミルクティーを供えてもらうよう、遠隔地からフードデリバリーを頼んだ。

ところが現地から動画配信していたネットユーザーが確認すると、フードの箱は空っぽ、飲み物は水だった。大量の注文が舞い込んだファストフード店の店員が中身を抜いていたのだ。

これが炎上騒ぎとなり、企業は謝罪と従業員解雇に追い込まれた。それどころか、バカ騒ぎに気付いた警察が動き出し、劉の姉が耳目を集める目的で嘘偽りの書き込みをしていたと発表、刑事事件として捜査を進めることとなった。

いろいろあったわけだが、結局は「痴情のもつれからの自殺」というだけのありふれた話である。それなのに、デジタルサービス、ネット炎上事件、フェイクニュース......テック絡みの話題が満載なのが不思議だ。生活の全てにデジタルが付きまとってくる、サイバー大国とはそういうものなのだろう。

20240910issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月10日号(9月3日発売)は「日本政治が変わる日」特集。派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:AI洪水予測で災害前に補助金支給、ナイジ

ワールド

アングル:中国にのしかかる「肥満問題」、経済低迷で

ワールド

ロシア国営TV、米有権者をトランプ氏に誘導か=米情

ワールド

アングル:ハリス対トランプ」TV討論会、互いに現状
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 2
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が増加する」農水省とJAの利益優先で国民は置き去りに
  • 3
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...「アフリカの女性たちを小道具として利用」「無神経」
  • 4
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 7
    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…
  • 8
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 9
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 10
    川底から発見された「エイリアンの頭」の謎...ネット…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 3
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つの共通点
  • 4
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 5
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 6
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 9
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」.…
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中