最新記事
BOOKS

「死刑囚だけど、会いたいから行ってるだけ」和歌山カレー事件・長男の本音

2024年6月28日(金)17時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

印南 そうだね。

 地上波とか新聞とかは、まるで美談のように「まだ(拘置所にいる親のところへ)会いに行ってる息子」みたいな構図をつくりたがるんです。でも、あんまりつらい悲しいばっかりしゃべっても、「こんな人生だったけどがんばってきたこの子」ってなっちゃうので。お涙頂戴というか。けれども、美談で終わらせるような内容でもない。

印南 人間って、もっと不器用でわかりにくくて、そこがおもしろい生き物だもんね。

 そうですね。本当のところは人間くささというか、「死刑囚だけど、会いたいから行ってるだけ」だという、ある意味でどうしようもない感情。そういうところなんですよね。

印南 だけど、「僕はもう好きになっちゃってるので」って、すごくいいことばだな。それを聞いただけでも、家族の絆の強さを感じる。

 でも難しさもあるんですよね。

印南 もちろんね。基本的には、他人には伝わらないと思ったほうが気が楽だよね。俺も子どものころから、そう考えながら生きてきた。悪い意味でみんな違うし、他人のことを否定的に見たがる人も多いから、伝わらなくて当然というか。それをスタートラインにしないとやってらんない部分はあるしね。なんて言っら身も蓋ふたもないんだけど。

 こうやって理解してくれる人も少ないというか。「被害者がいるのに、なにを言ってるんだ」って。

印南 たしかにそうで、遺族が苦しんでいるのも事実だけど、そもそも「加害者であるかどうかが疑わしい」という、決定的に立証されていない段階にある。なのに、根拠のないまま悪者扱いするのは違うよね。そもそも、叩いてくる人の大半は当事者ではない人なわけだし。

 そうですね。遺族が言うんだったらわかるんですよ。でも、関係ない人が言ってくるので。

印南 そういう人は相手にしなきゃいいんだけども、とはいえきついもんね。

 きついです。やっぱりこれを伝えるという、発信するとなると難しいですよね。

ところで横顔を見ながら話をしていて、感じたことがありました。当然のことではあるのですが、顔がお母さんに似ているなと。

 よく言われますね。鼻が似てるんですよね。太ったらよけい似るので、なるべく太らないように気をつけてます。でも、整形も考えたことがあるんですよ。あまりにも似てる似てるって言われるから。

印南 いや、それはしちゃいけない。

 この血のつながりが。

印南 親を好きなのに、親のことがそういう悩みにつながってしまうのも事実なのかもしれないけれど。

 叩かれる要素でもあるんですよね。「お前の代で途絶えさせろ」と言われたり。だから、顔を出さないという。

印南 え?

 末裔まで林家の血をつなげるなと。

印南 どういう人にそういうことを言われるの?

 まあネット上では言ってきますよね。

印南 だとしたら僕は反論したいね。事件があったからそういうことを言いたがるんだろうけど、でも結果的にここまで素敵な人に育ってるんだから。

『抗う練習』
抗う練習
 印南敦史 著
 フォレスト出版

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


20240709issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年7月9日号(7月2日発売)は「中国EVの実力」特集。欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」――そのリアルな現在地は?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米インフレ鈍化示す一段のデータ必要、利下げ前に=F

ワールド

OPEC産油量、6月は前月比日量7万バレル増=ロイ

ビジネス

米テスラ、第2四半期納入台数は予想上回る 値下げな

ワールド

NATO、ウクライナ防空で進展の公算 来週の首脳会
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国EVの実力
特集:中国EVの実力
2024年7月 9日号(7/ 2発売)

欧米の包囲網と販売減速に直面した「進撃の中華EV」のリアルな現在地

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    H3ロケット3号機打ち上げ成功、「だいち4号」にかかる防災への期待...「攻めの姿勢」で世界に示した技術力の優位性
  • 2
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 3
    自宅で絶叫...ウガンダから帰国した旅行者がはるばる連れ帰ってきてしまった「恐ろしいお土産」とは?
  • 4
    5つの独立運動に包囲された中国に「スイスモデル」と…
  • 5
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド…
  • 6
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 7
    テイラー・スウィフトに経済効果なし?...「スウィフ…
  • 8
    能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者た…
  • 9
    討論会惨敗の米民主党がここから「仮病」で大統領選…
  • 10
    ありなの? 飛行機の隣席に40kgの大型犬アメリカン…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「帰ってきた白の王妃」とは?
  • 3
    爆破され「瓦礫」と化したロシア国内のドローン基地...2枚の衛星画像が示す「シャヘド136」発射拠点の被害規模
  • 4
    ウクライナ戦闘機、ロシア防空システムを「無効化」.…
  • 5
    ガチ中華ってホントに美味しいの? 中国人の私はオス…
  • 6
    ミラノ五輪狙う韓国女子フィギュアのイ・ヘイン、セク…
  • 7
    「大丈夫」...アン王女の容態について、夫ローレンス…
  • 8
    キャサリン妃は「ロイヤルウェディング」で何を着た…
  • 9
    衛星画像で発見された米海軍の極秘潜水艇「マンタレ…
  • 10
    ロシア軍部隊を引き裂く無差別兵器...米軍供与のハイ…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に
  • 3
    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア
  • 4
    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…
  • 5
    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…
  • 6
    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…
  • 7
    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…
  • 8
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 9
    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…
  • 10
    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中