最新記事
開発協力×宇宙技術

アマゾン違法伐採の抑制、東南アジアでスマート農業を推進...「開発協力×宇宙技術」が変えていく世界【JICA×JAXA】

2024年2月22日(木)16時00分
※JICAトピックスより転載

jicajaxa4.jpg

さらに広がる、衛星データ活用の可能性

高樋 JICAは防災分野で、洪水、土砂災害、地震、火山噴火などの被害状況を把握する際に、衛星データを提供する宇宙機関、データを解析する研究機関、そして、そのデータを活用する行政機関の三者が連携する「センチネルアジア」※1と連携しています。また、2023年5月にアフリカのルワンダで洪水が発生した際には、ルワンダ宇宙庁からJICA事務所に、復興対策に向けて衛星データが活用できないかという連絡があるなど、近年多くの途上国から、さまざまな社会課題の解決に向け衛星データを活用したいという声が上がっています。

※1センチネルアジア...宇宙技術を活用したアジア太平洋地域の災害管理への貢献を目的とする国際協力プロジェクト

中村 私は今バンコクに駐在しているのですが、稲作が盛んな東南アジアでは、農業分野での衛星データの活用が進んでいます。衛星地球観測データとAIを組み合わせて農業気象をモニタリングするアプリケーションを研究開発し、稲作地の作況のタイムリーな把握や収量予測を行ってより効率的に収量をあげることができるような取り組みを行なっています。また、タイをはじめとする同地域各国では、衛星から高精度な位置情報を得るために地上に設置する「電子基準点」の整備を進めることで、農機の自動運転を進めるなど、スマート農業の推進にも力を入れています。

jicajaxa5.jpg

JAXAが開発した「だいち2号」の衛星データとAIを組み合わせて水稲の作付面積・収量を推定するアプリケーション「INAHOR」の画面

jicajaxa6.jpg

JICAはタイで「電子基準点に係る国家データセンター能力強化及び利活用促進プロジェクト」を実施し、自動運転農機の農作業への導入を促進している。2023年6月にはスマート農業の普及促進イベントも開催。写真はイベント「Agri DEMO DAY」の様子

高樋 衛星データ活用のポテンシャルは確実に広がっています。保健分野でも、感染症がどのように拡大していくか把握するために衛星データの活用が期待できますし、人々の所得向上や生活改善に結び付けていくことも可能だと思います。当室ではJICAのあらゆる取り組みの中に宇宙技術・衛星データの利活用が進むように取り組んでいます。

中村 最近はじめた取り組みとして、「水田由来の温室効果ガス削減プロジェクト」があります。実は、水田からは微生物の働きによって意外にも多くのメタンガスが排出されています。宇宙から「だいち2号」の衛星データを活用して水田の水位を測り、地上のIoTセンサーや排出量の算定手法を組み合わせることによって、収量を維持しながら水位をコントロールしメタンガスの排出は削減する、ということを目指した実証プロジェクトを進めています。これが可能になると、温室効果ガスの排出削減量を排出権として「クレジット化」でき、農家はクレジットを取引することで所得向上につながり、SDGsに掲げる貧困をなくすることにつながっていくと考えます。同プロジェクトは、昨夏よりフィリピンで開始し、タイやベトナムなど地域各国での実施も計画中です。ぜひこのような取り組みを、現地の事情に精通しネットワークも有するJICAと取り組んでいければと期待しています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中