南シナ海で中国がフィリピン船舶を威嚇する「本当の狙い」...西側企業の「フレンドショアリング」潰し
フィリピンの補給船(左)に放水を浴びせる中国海警局の艦艇(23年12月) PHILIPPINE COAST GUARDーHANDOUTーREUTERS
<中国の危険な挑発行為が急増している。もちろん領有権を主張するためだが、それだけではない>
去る12月9日、南シナ海のスカボロー礁周辺で、中国海警局の艦艇がフィリピンの補給船団に放水を浴びせて威嚇し、漁船への燃料搬入を妨害した。現場はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内だが、中国が2012年以来実効支配しており、両国の小競り合いが絶えない。
特にここ数カ月で中国側の危険な挑発行為が急増しており、生産拠点をフィリピンに移そうとしている米欧企業の間で懸念が広がっている。そして実は、それこそが中国側の狙いかもしれない。
領有権をめぐる争いのある海域、いわゆる「グレーゾーン」での危険行為を監視・報告する米スタンフォード大学のプロジェクト「シーライト」を率いるレイ・パウエルによれば、中国は南シナ海を自国の領海と一方的に宣言しており、異を唱える周辺諸国を威嚇するため、見せしめにフィリピンをいじめている。
これにはアメリカ政府も警戒を強めており、最近はフィリピン沖に米軍の哨戒機を飛ばし、中国側がフィリピンの船舶を威嚇している現場の上空を旋回させている。だが現実問題として、中国側の乱暴な振る舞いを止める手段はないに等しい。アメリカとしても、ここで中国と戦火を交えるリスクは取れない。
中国に生産拠点を置いてきた多国籍企業の多くは今、政治的・経済的なリスクを回避するため、もっと友好的な国へ工場を移そうとしている。いわゆる「フレンドショアリング」だ。
その場合の移転先として有力な候補の1つがフィリピン。西側諸国に友好的だし、労働者の教育水準は比較的高く、英語を話せる人も多い。地理的に中国に近いから、移転に要する時間やコストも、そう大きくない。周辺の東南アジア諸国との関係もいいから、分業体制の構築も容易だ。
移転候補国同士の競争は熾烈だ。コンサルティング会社カーニーが23年7月に発表したフレンドショアリングの候補地ランキングで、フィリピンは21年から3つ順位を落とし、12位にとどまった。メキシコなどが誘致攻勢を強めた結果だ。
どんな企業も、工場の立地を決めるに当たっては港へのアクセスを重視する。原材料の輸入にも製品の輸出にも港は不可欠だ。しかし港が近くにあっても、そこから安全に船を出せなかったら?