最新記事
東南アジア

中国との共同事業のインドネシア高速鉄道、ソフト開業を延期 安全性確保のため

2023年8月10日(木)11時29分
大塚智彦
インドネシアの高速鉄道

暗雲立ち込めるインドネシアの高速鉄道 REUTER//Antara Foto/Raisan Al Farisi

<日本の入札を反故にしたツケが出ている?>

インドネシアが首都ジャカルタから西ジャワ州州都バンドンまでの143.2キロを結ぶ高速鉄道の完工を期し、8月17日の独立記念日の翌18日に予定されしていた招待客を乗せたソフト開業の試験走行が延期された。

 
 
 
 

高速鉄道は中国が受注して中国の技術、資金協力で進められてきた計画で、インドネシアと中国との合弁事業体である「インドネシア中国高速鉄道(KCIC)」がソフト開業の試験走行を9月まで延期すると8月8日に発表した。

KCICは延期の理由を「乗客の安全性と快適性を確実にするためにさらに時間が必要と判断した」と説明しているが、「安全性と快適性」の具体的な内容には一切言及しなかったことから関係者の間には不安が広がる事態となっているという。

インドネシア政府は先に8月17日の独立記念日の翌18日にジョコ・ウィドド大統領や閣僚、国会議員や政財界の要人、駐インドネシア中国大使、さらに一般の招待客を乗せて行う最終的な試運転によるソフト開業を挙行し、10月から運賃を徴収した乗客を対象として本格的な営業運転開始を予定していた。

KCICによるとソフト開業は9月に延期するものの、10月1日の営業運転開始はこれまで通りに実施する方針であることを明らかにしている。

中国が受注したいわくつきのプロジェクト

インドネシア初の高速鉄道を建設するという構想は2015年に入札が行われ、安全性を前面に出した日本と、低価格・早期完工・インドネシア政府に財政負担を求めないなどを打ち出した中国との実質的競争となった。

しかし紆余曲折、不可解なプロセスを経て最終的に中国が受注した経緯がある。中国としては習近平主席が進める独自の経済圏「一帯一路」構想の一環としてなんとしてもインドネシア高速鉄道に関与したいとの強い意向があったとされている。

ところが、実際に建設工事が始まると建設用地買収の遅れやコロナ渦による中断などから当初の2019年の完工予定は度々延期された。

さらに工期の遅れや資材高騰などから建設費用が膨大に膨れ上がり、当初予算を約12億ドル上回る結果となった。最終的にはインドネシア政府は国庫からの支出を余儀なくされ、「中国に裏切られた」との批判も出ていた。

中国の車両、中国の労働者、中国の技術、そしてインドネシアも巻き込んでしまった資金でなんとか完工に漕ぎつけつつある、というのがインドネシアの高速鉄道の現状だろう。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状

ビジネス

アングル:中国本土株の投機買い過熱化、外国投資家も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中