最新記事
中国

中国、メコン川上流にダム十数カ所設置 追いつめられるタイの漁民

2023年4月3日(月)14時03分
ロイター

2019年から21年にかけての干ばつでは、中国のダムが多大な水量をせき止めたことが原因でメコン川の水位が記録的に低下し、干ばつが悪化したことが、スティムソン・センターと環境調査会社「アイズ・オン・アース」の衛星監視による調査で判明した。

中国は降雨量が少なかったためだとして調査結果に反論。2020年には、年間を通じて自国内の流量データを共有することでMRCと協定を結んでいるとしている。

エネルギー需要

国際エネルギー機関(IEA)の2021年の報告書では、新興国や発展途上国における潜在的な可能性がとりわけ高いことから、水力発電は「低炭素エネルギー生成の主役」だと評価している。

中国は世界最大の水力発電市場だ。IEAによると、中国企業は2030年までにサブサハラ・アフリカ、東南アジア、ラテンアメリカ地域における新規の水力発電のうち半数以上を担うという。

メコン川下流域のエネルギー需要は年間6─7%上昇すると予想され、「完全な水力発電開発」によって2040年までに1600億ドル以上の経済効果が見込めるとMRCは推測する。

ただ、住民が移住を強いられるなど、水力発電プロジェクトによる影響を懸念する声も世界中で高まりつつある。

ラオスでは2018年、建設途中のダムが決壊し、突発的な洪水で家が流され、数十人が死亡。「アジアのバッテリー」になることを目指していた同国で、水力発電のイメージに影を落とした。

「予想不可能な川」

ラクチェンコーン保護団体の二ワット・ロイケウ代表(63)は、何世代にもわたってメコン川に頼った生活を送って来た流域の集落の人々も、もはや川の側で暮らす術が分からなくなっていると指摘する。 

「ダムがあっては、川の動きが予測不可能になり、これまで積み重ねてきた知識も無意味だ」とロイケウ氏は嘆く。同氏は2022年、ゴールドマン環境賞を受賞している。

  スティムソンセンターとアイズ・オン・アースによるメコンダムの監視は、衛星画像とリモートセンシング技術を用いて、24時間以内に水位が0.5メートル増減した場合に、周辺のタイ・ラオス国境の集落に対して警告を行っている。

だが、こうした監視も他の選択肢を持たない集落にとってはほとんど意味が無い、とロイケウ氏は言う。同氏は地元の子供たちに川について教える「メコン学校」をチェンコーンで開催しているほか、研究者にも情報を提供している。

「人々が望んでいること、それは当然のことながら、包括的に協議をして川の共同管理を行うことだ」

4月まで続く現在の乾期でトーンさんはカイの収穫に注力している。運が良く数キロ採ることができた日には、一部を薄く延ばして日干しして乾燥させる。間食用として、市場でも高値がつく。

「毎日、収穫を終えて川を引き上げるタイミングも、一日にどれだけ収穫できるかもわからない。収穫できるときに可能な限り採っておかなくては」

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月全国百貨店売上高2.8%増、インバウンド・年

ビジネス

午後3時のドルは155円前半に下落、日銀決定「タカ

ビジネス

政策金利0.25%引き上げで新たに1.8%の企業が

ビジネス

少数与党の状況、幅広い共感得られる政策が可能=赤沢
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 3
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ人の過半数はUSスチール問題を「全く知らない」
  • 4
    いま金の価格が上がり続ける不思議
  • 5
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 6
    「後継者誕生?」バロン・トランプ氏、父の就任式で…
  • 7
    電気ショックの餌食に...作戦拒否のロシア兵をテーザ…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 10
    【トランプ2.0】「少数の金持ちによる少数の金持ちの…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵を「いとも簡単に」爆撃する残虐映像をウクライナが公開
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中