中国、メコン川上流にダム十数カ所設置 追いつめられるタイの漁民
ゴーストタウン
石炭への依存を減らし、再生可能エネルギーを増やす方針の中国では1995年以降、「ランカン川」の名で知られるメコン川で10数基のダムが建設された。うち5つは、それぞれ100メートル以上の高さがある「巨大ダム」だ。
中国はメコン川に流れ込む支流にも、少なくとも95基の水力発電用ダムを建設済みで、今後も数十基の建設を予定している。また、メコン川下流にある他国でのダム建設事業への資金援助も行っている。
下流域のタイ、カンボジア、ラオス、ベトナムからなる政府間機関「メコン川委員会(MRC)」の推定では、チベット高原や上流の中国・ミャンマーの「ランカン川(メコン川上流)」流域にある水力発電ダムで得られる電力は、年間約40億ドル(約5237億円)相当に上る。 ただ、メコン川流域で計画されているダムが全て建設された場合、川の堆積物が上流で閉じ込められるため、同地域の主食であるコメの栽培に影響を及ぼしかねないと複数の研究で予測されている。
さらに、ダムが魚の回遊を止めたり水流を変えたりすることで生じる漁獲量低下の損失額は、MRCによると2040年までに230億ドル近くになると見込まれている。さらに、森林や湿地、マングローブの破壊による損害は1450億ドルにまで上る可能性もあるという。
メコンダムの監視を行う米シンクタンク、スティムソン・センターで「エネルギー・水・再生可能プログラム」を主宰するブライアン・アイラー氏は、チェンコーンのようにダムに近い集落での被害は甚大だと指摘する。
乾期にも発電のため貯水池から放水することで「通常の2─3倍の水量」が流れる一方、雨期は放水制限によって流量が半分以上減る可能性もあるとアイラ―氏は分析する。
「これにより、タイ・ラオス国境の漁村でのゴーストタウン化が進んでいる」と同氏は続けた。
「こうした集落では環境の変化に適応する選択肢が少ない。高齢者が選べる生業は限られる。若い世代は移住したり、別の仕事で生計を立てたりするかもしれないが、順応するまでには様々なリスクを伴う」
MRC事務局はこうした懸念について、社会的影響を評価し、気温上昇や人口増加による影響も加味しながら、農業や集落に影響を与え得る流量や水質をの変化を監視していると述べた。
また、MRC事務局は取材にメールで回答し、水力発電事業によるリスクを管理して悪影響を軽減すべく、「ダムの設計、建設、運営に関する科学的かつ技術的な指標」を策定しているとした。
ただ、活動グループはMRCについて、地元集落と協議していないと指摘。中国がダム建設に本腰を入れて以降、より頻繁に、より激しくなっている洪水や干ばつについても、中国に対する責任追及ができていないとしている。