中国、メコン川上流にダム十数カ所設置 追いつめられるタイの漁民
毎年2月から4月になると、タイ北部の村に住むカム・トーンさん(48・写真)は、近くを流れるメコン川に膝までつかりながら、川藻を集めている。写真は2月撮影(2023年 トムソン・ロイター財団/Rina Chandran)
タイ北部の村に住むカム・トーンさん(48)は、毎年2月から4月になると近くを流れるメコン川に膝までつかりながら、川藻を集めている。売り物にしたり、家庭で料理に使ったりするためだ。
トーンさんをはじめ、メコン川沿いで暮らす女性の多くは、何十年間も「カイ(シオグサ)」と呼ばれる川藻を収穫してきた。だが、中国がメコン川の上流に十数カ所のダムを設置してからというもの、収穫量は激減した。
複数の研究者は、ダムによって水流が変化し、カイやコメ栽培に欠かせない川底の沈殿物もせき止められていると指摘する。
「乾期は普通は、水が澄んでいて水位が低く、川に入ってカイを採ることが簡単にできた。でも今は、乾期でも水位が高くなり、収穫が難しくなってきている」
地元の市場にカイを売って生計を立てているトーンさんは、両手いっぱいに持った糸状の緑藻を丸め、肩にかけたナイロン製の袋に入れながら、こうこぼした。
「以前よりもカイの収穫に時間がかかるようになってしまった。カイの量も減り、収入に影響するようになった」
タイ・ラオス国境にほど近いチェンコーンで暮らすトーンさんの収入は、乾期にメコン川の水位が下がり、カイも豊富に生息していた頃に比べ、3分の1にまで減少した。
トーンさんによれば、漁師である夫の漁獲量も減少しているという。
チベット高原から南シナ海へ約4350キロを流れるメコン川は、流域の中国、ラオス、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムに住む数千万人の農業や漁業を支えている。
しかし、中国が水力発電のためのダム建設を拡大し、季節外れの洪水や干ばつを引き起こす懸念が強まっている。また、強力な国家を後ろ盾に持つ複数企業の手に東南アジア最長の河川の未来が握られるようになったことにも、不安の声が出ている。
地元の集落や活動家からは、クリーンエネルギー推進の機運の高まりを前に、地元の懸念や不安が無視されているとの声が上がる。
「上流に建設されたダムが、漁業やコメ栽培のほか、女性や高齢者の収入源となっている川藻の収穫に影響を及ぼしている」
活動団体「リバーズ・インターナショナル」のタイ・ミャンマー支部で代表を務めるピアンポーン・ディーツ氏はこう指摘した。
「川が水力発電の動力源のためだけに使われてしまえば、大勢の命や生活に影響する。食料や伝統、習慣、生き方に関わる問題だ」