最新記事
環境

温暖化対策で注目のCO2回収テクノロジー「DAC」 世界最大規模のプラントが続々と稼働するワケ

2023年3月7日(火)20時15分
岩澤里美(スイス在住ジャーナリスト)

巨大なDACモジュールの組み立て風景  (c) CarbonCapture Inc.

<温暖化対策の新しい手法として話題のDACがいよいよ本格的に動き出した>

脱炭素社会を実現しようと多くの国々が対策に取り組むなか、大気中のCO2を直接吸収する新しい技術「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」を使ってCO2削減を実践する専門企業が徐々に増えている。

DACは、大気からCO2を回収しCO2フリーの(またはCO2を極力減らした)空気を放出する。集めたCO2は合成燃料や炭酸飲料に使われる。また、集めたCO2を地中深くに埋め、数年で石化させるという方法も実用化されている。国際エネルギー機関(IEA)によると、昨秋の時点で、約20のDACプラントが世界で稼働中だ。

アイスランドに、世界最大規模のDACプラント建設中

2021年9月、筆者はスイスのチューリヒで開催された国際会議「(第2回)ダイレクト・エア・キャプチャー・サミット」に出席した。DACの専門企業の代表などがスピーカーで、講演や討論が行われた。100人以上が会場を埋め、世界中から2千人を超えるライブストリーム参加者もいて、DACへの関心の高さがうかがえた。会議を主催したのは、チューリヒのクライムワークス社だ。
   
同社は2017年春に世界で初めて、産業規模のDACを建設して大きな話題を呼んだ。そのDACプラント「カプリコーン」はチューリヒのごみ処理施設屋上に設置され、集めたCO2は近くの農家のグリーンハウスにパイプで送られ、トマトやキュウリなどの成長促進に使われたり(濃縮したCO2を作物に与えると成長が早くなり、収穫時期も早くなるため)、スイスのコカ・コーラが炭酸水製造に使用した。年間CO2回収量は約900トンと少なかったが、画期的な一歩だった(カプリコーンは昨秋、運転終了した)。

この会議で、同社は、アイスランドで稼働を始めた2つ目のDACプラント「オルカ」を紹介した。オルカが優れているのは、年間4千トンのCO2を大気から回収する点と、回収したCO2を水に溶かして地下に埋めて石にする点だ。この石化も、同社が世界で初めて実用化した。勢いに乗る同社は、「今度は、オルカをはるかに上回るプラントを建設する予定だ」と会議で発表した。

現在、その第3のプラント「マンモス」の工事が進んでいる。マンモスもアイスランドにある。マンモスはフル稼働すれば、オルカの9倍の3万6000トンのCO2を年間に回収できるという。回収したCO2を処理する巨大ホールを中心に「CO2回収コンテナ」がぐるりと囲む設計だ。回収したCO2は地下に埋める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中