最新記事

BOOKS

在日は「境界人」、ゴキブリ呼ばわりされることもあるが、ノブレスオブリージュを負っていい

2023年1月30日(月)06時40分
印南敦史(作家、書評家)

そして、外国人労働者と彼らを受け入れる日本社会との間に立っているのが在日だ。複数の文化の交差点にいる「境界人(マージナルマン)」であり、日本人からは"身近なよそ者"として扱われることもある。だからこそ、冒頭で触れたミュージシャンの苦悩のようなものが生まれるのだろう。


 いずれにせよ、この国が排外主義のうずに呑まれ死者が出るような未来は、まちがいなく失楽園(ディストピア)だ。境界人はうかうかしていられない。そこで、古くからの移民である在日がどう統合されてきたかをふりかえることは、日本のきらめく未来へのヒントを与えてくれるのではないかと思う。(21ページより)

戦後の在日史は大まかに「排除の時代(1945年~70年代)」「統合の時代(70年代~90年代)」「再排除の時代(2000年代~)」に分けられるという。私が過去に学んできたことや個人的な記憶をなぞってみても、それは納得できる話だ。

ともあれ本書ではこれらの各時代を振り返り、最終的には歴史と未来に関わる問題について言及しているのである。

著者の表現はストレートで力強いが、しかし決して感情的にはならず、むしろ客観性を維持し続ける。"過去にあったこと"を冷静かつ詳細に記し、最終的には"そこからどう進むべきか"に帰結するように話を進めているのだ。ひとつひとつのことばに共感できるのは、きっとそのせいだ。

「韓国なんて大嫌い。けどKOHHは好き」と、この国の希望


 たかだか排外主義くらいで、この国、この国の人間の可能性をあきらめてしまうことは、見切り発車もはなはだしい。安直な絶望は安全圏にある者のおもちゃにすぎない。社会の現場でもがく者にとって、腹の足しにさえならない霞(かすみ)にひとしい。
 この列島には、民族をまたいでささやかな希望のエピソードを織りなしてきた人がたくさんいる。必要なのは、そのエピソードを地道に仕立て直して人に供することだ。そうすることで、寛容の回復に向けた社会のリハビリを1ミクロンでも進めるべきである。(263~264ページより)

ここにある「寛容の回復」こそ、私たちが意識し、そして実現すべきことではないだろうか。たとえ排外主義者に邪魔されたとしても、それは成すべきことだと感じる。

教師である著者は、本書の後半でラッパーのKOHHの話題を出している。数年前に高校生から、「先生はいいよな、KOHHといっしょなんでしょ」と言われたというのだ。

だがその時点でKOHHのことを知らなかったため、「どこがいっしょなのだろう」と思い、上半身がタトゥーに染まった彼のことを検索したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、エヌビディアAI半導体の中国販売認可を

ワールド

習氏、台湾問題で立場明確に トランプ氏と電話会談=

ビジネス

EU、AIの波乗り遅れで将来にリスク ECB総裁が

ワールド

英文化相、テレグラフの早期売却目指す デイリー・メ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中