最新記事

インフラ

「もうどうでもいい」 逆襲ウクライナの「急所」を、気まぐれイーロン・マスクが握る不安

Rich Men Aren't Saviors

2022年11月30日(水)11時26分
オルガ・ボイチャク(シドニー大学講師)、テチアナ・ロコト(ダブリン市立大学准教授)

マスクの意味不明なツイートやスターリンク支援に関する一貫性の欠如を見れば、地政学的状況が急速に変化する今の時代に、持続可能なネット接続環境の維持を民間企業に依存することのデメリットは明らかだ。

いつの時代にも、敵の通信インフラを制圧することは戦争の常道だった。だから敵からの攻撃に強いネット接続環境の構築は、今後の武力紛争で重要な課題となるだろう。真に回復力のあるネット接続環境の確立には、信頼性の高いインフラ構築と最新のサイバー防衛技術に国家レベルで先行投資する必要がある。そうしないと、マスクのような人物に振り回される。

現在のスターリンクは場当たり的に調達され、法的な根拠もない。だからウクライナにとって信頼できるネット接続環境とは言い難い。元米空軍大佐のディーン・ベラミーに言わせれば、スペースXは現下の戦争に「政府との契約なしに関与し、紛争の帰趨に影響しかねない意思決定や政策に影響を与えている」。

スターリンクだけが選択肢ではない

一方、ウクライナ軍を支援する非営利団体「国家安全保障強化のための全ウクライナ基金」のユーリイ・ブツソフ代表は、ウクライナ軍の指揮命令系統にスターリンクを正式に組み込み、全ての指揮官と司令部に端末を配布すべきだと提案している。そのためにはウクライナ政府がスペースXと包括的な長期契約を結び、技術サポートと中断なきサービスの提供を約束させる必要があるだろう。

そうすればウクライナにある端末の数や資金の出所、維持費や利用料なども明らかになり、スターリンク運用の透明性が確保される。当然、スペースXにはしかるべきインフラ投資の義務が生じる。理想を言えば、ウクライナで使う端末の修理施設も整備したいし、敵による不正な接続を遮断するシステムも欲しい。

しかしスターリンクだけが選択肢ではない。米国防総省のサブリナ・シン副報道官によれば、ウクライナでネット接続環境を維持するにはグローバル市場で入手可能な代替技術にも目を向けるべきだ。シンは10月14日の記者会見で、国防総省がウクライナの衛星通信インフラを支援する複数の選択肢を検討していることを明らかにした。

米軍の防衛先端技術研究計画局(DARPA)は数年前から「ブラックジャック」というスターリンクに似たネットワークの開発を手がけており、昨年6月には衛星2基の打ち上げに成功している。米宇宙開発庁も、ミサイル追跡などの軍事活動を支援するため、分散型センサーを搭載した大型衛星群の打ち上げを計画していると伝えられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中