最新記事

日本社会

他人の悲しみや苦痛を美談化し、使い捨てするメディアへ【エモを消費する危うさ:後編】

2022年10月18日(火)08時01分
ヒオカ(ライター)

「消費」とは、摂取しても血肉とならずに体から排出されることだと私は思う。人の困難を娯楽として消費しても、どこまでも他人事である。そして、得られる関心の「質」は絶対に向上しない。

つまり、センセーショナリズムの利用によって、人々のグロ・ポルノ消費欲を刺激することに成功し、「使い捨て」の好奇心を引き寄せる。結果としてPVを上げる目的は果たされても、質の高い関心を得られる可能性は低い。

悲惨さを盛る「有害なポジティブさ」

最近メディアジェニックという言葉を聞いた。フォトジェニックという言葉があるが、メディアジェニックとは「メディア映え」することを指すらしい。

メディアの慣習に、物事を美化する手法がある。社会問題を扱う場合にも、この手法が使われてしまうことがある。

典型的なのは、「大変だけれど糧になった」「悪いことばかりではなかった」といった回収だ。「障害は個性」といった言説など、その象徴ではなかろうか。

もちろん当事者がそう思ったり、そういう言葉を使ったりすること自体は何も悪くないと思う。ただ、現状はまだ、障害がある人が生きるうえで障害を感じざるを得ない社会であり、まだまだサポートが足りず、社会が変わらなければならない状況だ。

そんななかでメディア側がしきりにこの言葉を使うことは、問題を矮小化しているように感じるのだ。

悲惨さを抽出して、美談として盛り立てる。これは、「有害なポジティブさ(トキシック・ポジティビティ:toxic positivity)」と言われる。悲惨であるほど、終わりにインパクトがあるほど、メディアジェニックだ。そして、問題を問題として伝えること、受け取ることを阻害する。

「エモい」とは何とも言えず素敵な気持ちになった時や、ある対象に対して感情が揺れ動いた時に使われる若者言葉だ。その「エモい」感情を多分に引き出す文章表現が「エモ文体」と言われる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 5
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 8
    三船敏郎から岡田准一へ――「デスゲーム」にまで宿る…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中