最新記事

歴史

戦場に散ったラガーマンたち──知られざる「日本ラグビーと戦争」秘話

2022年8月5日(金)06時20分
早坂 隆(ノンフィクション作家)

フィリピンで散った闘将

早稲田大学ラグビー部時代にフォワードとして活躍し、卒業後、同部の監督となった大西栄造は、情熱あふれる指導で部員たちから厚い信頼を集めた。「勝つのもタックル、負けるのもタックル」が大西の信念であった(ちなみに、彼の実弟の鉄之佑は、戦後にラグビー日本代表の監督などを歴任することになる)。

昭和19年、大西は陸軍に応召。親しい戦友に対し、大西は以下のように話したという。「もし、俺の死体がわからない時は、ラグビーの靴を履いた死体を探してもらいたい」。大西が最終的に派遣されたのは、激戦続くフィリピンだった。

昭和20年7月、大西はフィリピン諸島の南部に位置するミンダナオ島のダバオにいた。

フィリピン各地の戦線において、圧倒的な威力を発揮したのが米軍の戦車であった。日本軍が有する対戦車砲は、重厚化の進んだ米軍戦車の分厚い装甲を撃ち破ることができなかった。

そんな日本軍が決行したのが「肉薄攻撃」だ。爆雷を兵士が持ち、戦車に近接して車体の底面に投げ込むという作戦である。生還はほぼ不可能という事実上の「特攻」であった。

同月7日、大西は生前の言葉通り、ラグビーシューズを履き、さらには早大のジャージを腰に巻いて、一命を投げ出した。突進してくる敵の戦車に爆雷もろとも突撃し、敢然と散ったとされる。

彼の生涯における最期のタックルであった。

『戦時下のノーサイド 大学ラグビー部員たちの生と死』
 早坂 隆 著
 さくら舎

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


「戦争に行く前に、ライバルと最後の試合がしたい」昭和18年秋、学徒出陣の直前、非公式かつ内密にあるラグビーの試合が行われた。東大―京大戦である。惜別の思いで迎えたノーサイド。その後、学生たちは戦場へ赴いた――。

日本ラグビーの黎明期に創部し、関西を中心にラグビーの興隆に大いに貢献した京都帝国大学ラグビー部を主人公に、東大・慶大・早大・明大・同志社大などのライバル校の歩みも交え、戦前・戦中のラガーマンの軌跡をたどる一冊。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

駐日中国大使、台湾巡る高市氏発言に強く抗議 中国紙

ビジネス

米国とスイスが通商合意、関税率15%に引き下げ 詳

ワールド

米軍麻薬作戦、容疑者殺害に支持29%・反対51% 

ワールド

ロシアが無人機とミサイルでキーウ攻撃、8人死亡 エ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗り越えられる
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中