国策としての「標的殺害」を行うイスラエル、外交上に本当に有益なのか?
ISRAEL'S CHOICE WEAPON
イスラエルに暗殺されたイランの核科学者ファクリザデの埋葬式(2020年11月30日) HAMED MALEKPOURーWANAーREUTERS
<1948年の建国以来、自国の存続に「欠かせない武器」として計画的殺人を行ってきたイスラエル。報復ではなく、「殺人を未然に防ぐための殺人」はモラルだけの問題ではない>
ナチス・ドイツでミサイル開発に携わっていたロケット科学者ハインツ・クルークが、ミュンヘンの仕事場からこつぜんと姿を消したのは1962年9月11日のこと。かつての同僚たち同様、クルークもガマル・アブデル・ナセル大統領率いるエジプト政府に協力していた。
そのエジプトは、既に2度もイスラエルと戦争をしていた。話せば長くなる(実はイタリアのムソリーニやアルゼンチンのエバ・ペロン、ナチスの隠匿財産なども絡む)が、要はイスラエルの諜報機関モサドが、かつてヒトラーの親衛隊にいた男を雇ってクルークを殺させたのだ。
それはイスラエルが手掛けた数ある暗殺計画の中でも最高に映画性に富む事件だったが、むろんこれが最後ではなかった。
今年も5月下旬から6月にかけて、イラン革命防衛隊の関係者7人(現役の大佐2人を含む)が別々に殺害されている。そして当然のことながら、イラン側はモサドの犯行だと非難している。
イスラエルは1948年の建国以来、一貫して暗殺を自国の存続に欠かせない武器と見なしてきた。同年秋には、早くも国連のパレスチナ調停官フォルケ・ベルナドッテをユダヤ人武闘派の「レヒ」が殺害している(彼の調停案をユダヤ人に不利と見なしたからだ)。
ちなみに、当時レヒを率いていたイツハク・シャミルは後にイスラエル首相となる。
シャミルは有名なダモクレス作戦にも関与したとされる。元ナチス親衛隊のオットー・スコルツェニーを使ってクルークを殺害する一方、ヒトラーのユダヤ人虐殺計画を引き継ごうとするナチスの残党らを標的にした作戦だ。
信憑性は高くないが、シャミルはドイツで拉致したドイツ人科学者を「エジプトに連れて行く」と偽ってジェット機に乗せ、高度数千メートルで機体のドアを開け、「ここがおまえたちの終着地だ」と通告したとも伝えられる。
イスラエルが隠密作戦を得意とするのは周知のところ。時には間違って別人を殺してしまうこともあるが、それはさておき、問題はこうした超法規的な方法が本当にイスラエル外交に有益なのかどうかだ。
今日までにイスラエルが標的にしてきたのは、たいていイランの核兵器・ミサイル開発計画に関与している人物だ(例外もあり、2年前には1998年にアフリカで起きた米大使館爆破事件の首謀者とされるアルカイダ幹部を殺害している。これには米政府の要請があったとされる)。
なかでも劇的だったのは、著名な核科学者モフセン・ファクリザデを殺害した2020年の事件だ。