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韓国BTSが兵役に就くことは、本当に韓国の国益? 7人が抱える本当の苦しみとジレンマ
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米ホワイトハウスでアジア系住民に対するヘイト犯罪に反対を訴えたBTSのメンバー(5月31日) KEVIN DIETSCH/GETTY IMAGES
<兵役に就いて国防に尽くすか、韓国のイメージアップか。人気絶頂だからこそ、国家と国民から求められ続ける難しい役回り>
韓国の大人気ポップグループBTS(防弾少年団)が無期限の活動休止を発表して、世界中のファンが悲鳴を上げたのは6月半ばのこと。だがワン・ダイレクションなどの場合とは違い、その決断は本人たちの希望だけでなく、韓国の国家安全保障政策とソフトパワー拡大戦略のバランスという複雑な事情と結び付いている。
BTSのメンバー7人は、6月14日にオンライン配信されたデビュー9周年記念の夕食会の場で、クリエーティブな時間も満足に取れないグループ活動への疲れと、ソロ活動への意欲を理由に、グループとしての活動をしばらく休止することを発表した。
彼らの所属事務所であるハイブの株価は、たちまち急落。焦ったハイブは、BTSは今後もグループとしての活動を緩やかに続けると発表した。
だがファンは、活動休止の発表はメンバーの疲労やソロ活動への意欲だけでなく、一部のメンバーが近く兵役に就くことと関係しているはずだと考えている。折しも韓国では、BTSが兵役を免除されるべきか否かをめぐり、激しい政治論争が起きていた。
韓国の兵役免除は一般に健康上の理由でしか認められないが、実際にはさまざまな場合に認められてきた。例えば、国際大会で優れた成績を上げたスポーツ選手には、社会奉仕活動などの代替服務が許されることがある。
サッカーのイングランド・プレミアリーグで活躍する孫興民(ソン・フンミン)がそうだ。彼は数週間の基礎訓練を受けた以外は、ロンドンの韓国人学校でサッカーを教えるなどの奉仕活動をすることで今年春に兵役を終えたと認められた。
BTSも今年4月に、権威ある米音楽賞のグラミー賞を受賞すれば兵役を免除されるのではと言われていたが、受賞はならなかった。
韓国の兵役は、建国された1948年に始まった。その直後に朝鮮戦争(50〜53年)が起きたこともあり、国家防衛のために兵役は不可欠という考えが世間一般に受け入れられるようになった。韓国では80年代後半まで軍事独裁政権が続き、その下で急速な経済発展が進んだことから、軍は国家建設の中心的存在でもあった。
93年以降は、職業軍人としての経験がない文民大統領が続いている。だが韓国の男性にとって兵役は、人生を送り、仕事を続けていく上で欠かせない経験と位置付けられており、韓国社会に軍国主義的な文化が根深く残る要因にもなっている。
実際、兵役を終えることは、愛国的な国民の証しと見なされる。多くの公務員や会社員にとっては通らなければならない道であり、兵役同期とのつながりは一生続く。
兵役制度に高まる不満
だが、若者の不満は大きい。現在の兵役期間は1年半で、かつての3年から大幅に短縮された。それでも貴重な20代の一時期に勉強や仕事の中断を強いられるこの制度は、社会に対する若者の不満のトップに挙げられている。
2015年、韓国の若者の間で「ヘル朝鮮」という言葉が流行した。超競争的な現代の韓国社会は、封建的で序列が厳しく、社会的にも経済的にも極端な格差が生じた朝鮮王朝時代(1392〜1897年)のヘル(地獄)の再来だというのだ。
兵役は、高学歴と安定した仕事と良縁を得るため幼い頃から激しい競争を強いられてきた男性の肩に、さらに重くのしかかる厳しい要求の1つと見なされている。
そんななか、ひとまず健康そうなBTSの7人の兵役を免除することは、就任して間もない尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領にとっていい決断ではないかもしれない。尹は大統領選の時から、ヘル朝鮮を唱える世代の男性の支持を得ようと必死になってきた。だが大統領となった今は、北朝鮮の現実的な脅威に対して信頼に足る兵力を確保する必要性も、これまで以上に理解している。
バイデン政権にも協力
その一方で、韓国政府は別のニーズも痛感している。それは韓国のポップカルチャーの世界的な流行である「韓流」の成功を引き続き強力に推進して、国際社会における韓国の影響力、すなわちソフトパワーの拡大に役立てる必要性だ。
音楽や映画やテレビドラマなどの韓流コンテンツは韓国のソフトパワーだけでなく、貿易収支にも大きく寄与してきた。BTSはその両面で群を抜く貢献を見せている。
キャッチーな楽曲と外国の有名アーティストとのコラボレーション、熱烈なファンのおかげで、彼らはアメリカはもとより世界中のチャートを席巻した。同時に昨年の国連総会に文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)と登壇したり、最近では米政府に協力してアジア系住民に対するヘイト犯罪への反対を呼び掛け、ホワイトハウスを訪問してジョー・バイデン米大統領と会談するなど、韓国の国際的なイメージアップにも著しく貢献している。
韓国政府がBTSについて、国家安全保障の要請を優先して兵役に就かせるか、それともソフトパワー戦略を優先して兵役を免除するかは、まだ分からない。兵役に就くとしても、メンバーが1人ずつ、あるいは2〜3人ずつ就くことにするのかも分からない。
いずれにしても、ソーシャルメディアにはファンの愛があふれている。BTSがグループとしての活動を再開する時が来たら、どこのどんな舞台であっても歓迎されることは間違いなさそうだ。
Sarah A. Son, Lecturer in Korean Studies, University of Sheffield
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.