アメリカ軍より優れる──ウクライナ内製ソフトで砲撃20倍迅速に
「アメリカ軍より優れる」 米国防関係者が語る
アメリカ国防契約管理局のテレンコ氏はツイートを通じ、GIS Artaアプリとスターリンク衛星通信の組み合わせが、「アメリカ軍の一般的な砲術指揮統制と比較して相当に優れたものをウクライナ軍にもたらした」との見解を示している。
このような演算システムはウクライナ独自というわけではなく、例えばアメリカ軍も砲兵射撃指揮統制システム(TACFIRE)や先進野戦砲兵戦術情報システム(AFATDS)などを導入している。しかし、砲撃までの時間には雲泥の差がある。
トレント・テレンコ氏は、「米軍は指令から発射まで、第二次大戦では5分、ベトナム戦争では15分、現在では1時間を要している」「いや、書き間違いではない」と述べている。
アメリカでは友軍に対する誤射防止などのため、上層部への確認手続きに時間を要するようになっているのだという。対するGIS Artaはこの常識を覆し、常に自軍の位置を追跡しておくことで、元々20分だった工程を最短30秒にまで短縮した。ウクライナのシステムは、「意思決定」と「引き金を引く」のあいだに存在した冗長な時間を、IT化で省いたといえそうだ。
クリミア危機が導入の契機に
GIS Artaの中核をなすコードは、兵力管理ソフトの製作を手掛けるウクライナのヤロスラフ・シャストゥーク氏が完成させた。氏は地理データを解析・活用する地理情報システム(GIS)の専門家だ。
米政治ブログ誌の『デイリー・コス』はGIS Artaについて、ウクライナが開発した「革新的」な砲術ソリューションだと評価している。「アメリカの技術ではない。イスライエルの技術でもない。自家製なのだ」と同誌は強調する。
GIS Artaの歴史は2014年ごろにまで遡る。ロシアによるクリミア侵攻を受け、ウクライナ軍の能力を強化する目的で導入された。
当初こそ砲撃計画システムの立ち位置に留まったGIS Artaだが、いまではより広範な戦術システムとしてウクライナの指揮官たちを補佐している。指揮官たちは軍司令部からシステムを参照して射撃命令を出すほか、兵站や通信のサポートなど幅広い業務をGIS Artaを活用して進めている。
開発に携わったエンジニアのひとりはタイムズ紙に対し、「レーダーと連携していれば、敵の所在を知るだけでなく、ミサイルの射出時にそれを検知し、着弾予想地点とそこに自軍の部隊があるか否かを自動的に検出します」と語る。「ロケットがまだ空中にある段階で、自軍に退避を促すことができるのです。」
西側による兵器支援がウクライナの防衛を支えているのはもちろんのこと、内製の優れたソフトウェアもその活用に一役買っているようだ。