日韓の関係修復は期待できず、多くの難題が待つ韓国「新大統領」の安全保障政策
尹(左)が勝利しても中国の軍拡や日韓関係など課題は山積み AP/AFLO
<3月9日の大統領で李在明と尹錫悦のどちらが勝利しても、北朝鮮や中国への対処、米韓・日韓の協力関係などに絡んで難題が次々に降りかかりそうだ>
3月9日投開票の韓国大統領選は一種の経済ポピュリズムといえるほど国内消費に議論が集中している。アメリカからインド太平洋戦略への関与を強く求められているにもかかわらず、過去の大統領選で主要テーマだった安全保障と防衛の議論はほぼ皆無だ。
だが候補の李在明(イ・ジェミョン)と尹錫悦(ユン・ソクヨル)のどちらが勝利しても、次期大統領には就任初日から文在寅(ムン・ジェイン)の残した安全保障関連の難題が待ち受ける。以下に4つの主な論点を挙げよう。
■韓米関係は韓国大統領選の結果に影響されるか?
次期政権は、最近やや揺らいでいる韓米同盟を引き継ぐことになる。文の後継者は強靭で信頼性の高い韓米同盟を維持するために、北朝鮮の脅威への抑止力をいかなる方法で高めるのが最善かを判断しなければならない。
DMZ(非武装地帯)の監視所撤収などを定めた2018年9月の南北間の包括的合意や、戦時作戦統制権の米軍から韓国軍への移管を目指す試みによって北朝鮮に対する防衛体制は著しく弱体化した。韓米同盟は北の核兵器やミサイルの脅威に直面しており、指揮制御体制を統一的な単独構造に統合する必要がある。
■中国の軍拡主義にどう対処すべきか?
米中の緊張が高まるなか、文は状況に応じてどちらかに接近することで戦略的自律性を発揮しようとしてきた。しかし、この「安全保障と経済の分離」は実行が困難だ。
中国は南シナ海と東シナ海、台湾近海に軍を展開しており、朝鮮半島周辺がすぐに標的となる見込みは薄い。日本は自国の安全保障が損なわれるとして台湾の安全保障問題に意外なほど関心を寄せているが、韓国にはその懸念はない。
北の脅威と対峙する韓国は、外交と軍事政策を朝鮮半島に集中させるべきだ。米主導の反中国政策に同化しすぎるのは深刻な戦略的誤りだ。
■日韓関係への取り組みは?
仮に次期大統領に韓日関係修復の意欲があっても、国民感情によって制限が課されることだろう。アメリカのインド太平洋戦略には日韓関係の改善が必要だが、米政府はいまだに関与を拒んでいる。さらに韓国軍と自衛隊の相互運用性が低い点など3国間の協力緊密化を阻む課題も多い。
韓国と同じく日本にとっても、中国と北朝鮮は現実的な脅威だ。中国絡みの軍事的危機の発端は朝鮮半島かもしれないが、すぐにエスカレートして域内の主要な米軍基地や自衛隊基地に先制攻撃が加えられるかもしれない。
だが、そこまでの事態に至らない危機には既存の枠組みで対処できる。現時点では日韓の軍事的関係がより緊密になる見込みはない。