最新記事

アフガニスタン

アフガニスタン、学業の夢遠ざかる女性たち 生活困窮で復学困難に

2022年3月6日(日)12時00分
カブールの大学で法学を専攻するワヒーダ・バイヤートさん

アフガニスタン各地の大学には学生たちの姿が戻りつつある。だが、法学を専攻するワヒーダ・バイヤートさん(写真)は、そこに加われない。写真は2月24日、カブールの大学の前で撮影(2022年 ロイター)

2月、アフガニスタン各地の大学には学生たちの姿が戻りつつある。だが、法学を専攻するワヒーダ・バイヤートさん(24)は、そこに加われない。

バイヤートさんは、首都カブールにある私立ガハルシャッド大学で学業を再開する日を楽しみにしてきた。だが、経済の崩壊に伴い何百万人ものアフガニスタン国民が貧困に沈む中、バイヤートさんも大学に戻る余裕を失っていた。

ある晴れた日、かつて通ったキャンパスの脇を通りながら、「大学の様子が見えるのは嬉しい」とバイヤートさんは言う。

「私も勉強を続けられれば、クラスメートや先生方と一緒に過ごせれば、図書館に行って勉強できれば、どれほど良かっただろう、と思う」

イスラム主義組織タリバンは、前回この国を支配していた時代は少女・女性が教育を受けることを禁じていたが、最近では女性が大学に復学することを認めている。だがバイヤートさんは、学業よりも9人家族の食事と住む場所を確保することに力を注がなければならない。

昨年8月にタリバンが権力を掌握して以来、アフガニスタンに対する援助の大部分が突然中断され、同国は危機に陥った。

カブール市内の公園には、支援を求めて農村地域から集まる人々の粗末な小屋が建ち並び、病院のベッドは栄養不良の新生児で溢れている。国連の開発担当機関は、2022年後半には、アフガニスタン国民の最大97%が貧困ライン以下の生活になる可能性があるとの見解を示している。

その中でも、女性に対する影響は不釣り合いに大きい。

データによれば、ここ数カ月、女性は男性よりも高い比率で職を失っている。権力掌握の直後にタリバンが課した女性の就労制限のために職場を追われた人もいる。20年に及ぶ西側諸国の支援を受けた政権の中で勝ち取った権利の一部は再び失われてしまった。

バイヤートさんは以前、地元のメディアネットワークで働いて月1万2000アフガニ(約1万5000円)を稼ぎ、自分の学費を賄っていた。

だが母親もろとも職を失った後は、姉妹と一緒に民族衣装を作って8000アフガニの収入を得るだけに留まっている。家族全員を養っていくのがやっとの金額だ。

カブール西部にある寝室3部屋の自宅でロイターの取材に応じた母親のマルジアさんは、「ワヒーダが学業を続けられないことを気にしている」と語った。「勉強熱心な娘だ。大学を続けられるように、何とかお金を得られればいいのだけど」

経済危機が女性の教育に与えている影響や、女子学生が教室に復帰する際に何らかの制約が課せられているのかという質問に対して、高等教育省は回答を控えた。

女性に大きな打撃

男性であれ女性であれ、どの程度のアフガニスタン国民が経済的理由で大学を諦めてしまったのか、公式な統計はない。だが、退学者の比率は女性の方が高くなっているように見える。

ロイターでは、西部ではカブールとヘラート、東部ではナンガルハルとラグマーンなど、国内各地の大学で女子学生15人に話を聞いた。そのうち8人は、経済的な厳しさゆえに学業を諦めつつあると話した。

その他3人も困難に直面しているとし、講義に出席する時間を減らさざるをえず、退学を考えているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中