ウクライナ侵攻が正教会にもたらす混乱 親プーチンのロシア・キリル総主教は孤立化
キリル総主教は、ウクライナを自らの精神的管轄領域の不可分な一部だと主張している。すでに、トルコのイスタンブールを拠点とするエキュメニカル総主教のバルトロメオ師との関係は決裂した。バルトロメオ師は、正教会の世界における同格の存在の中で真っ先に反旗を翻し、ウクライナ正教会の自治を支持したからだ。
ジョージアでは、かつて同国の駐バチカン大使を務めたこともあるイリア国立大学のタマラ・グルゼリゼ教授(宗教学)が、ロイターに対し「いくつかの正教会は、キリル総主教の戦争に対する態度について激怒しており、世界各地の正教会で大混乱が生じている」と述べた。
フォーダム大学(米ニューヨーク)の正教会キリスト教研究センターやボロス神学研究アカデミー(ギリシャ)をはじめとする研究機関に所属する正教会系の神学者らは、「敵意を積極的にあおる方向で祈りを捧げるよう信徒たちに指示する」教会指導者たちを非難する共同声明を発表した。
今回の戦争を批判する正教会の指導者としては、この他にも、アレクサンドリア及び全アフリカ正教会の総主教であるテオドール2世、ルーマニア正教会のダニエル総主教、フィンランド正教会のレオ大主教といった面々がいる。
他のキリスト教会との亀裂
キリル総主教の態度は、ロシア正教会と他のキリスト教会の間にも亀裂を生みだした。
世界教会協議会(WCC)の事務総長代理を務めるイアン・ソーカ神父は、キリル総主教に「停戦に向けた当局の仲介と調停」を求める書簡を送った。
これに対しキリル総主教は、「あからさまにロシアを敵視する勢力が国境に近づき」、西側諸国はロシアを弱体化させるための「大規模な地政学的戦略」に関与している、と応じた。WCCは両書簡を公開した。
1917年のロシア革命後、ソ連の指導者たちはロシア正教会の粛清を開始した。スターリンは第2次世界大戦でのヒトラーのロシア侵攻の後に、社会を団結させるために正教会を復活させた。
「これと同じアイデアを、今やプーチンが復活させつつある」と語るのは、英ケンブリッジ大学でスラブ・ウクライナ研究を専門とするウクライナ系米国人のオレンカ・ペブニー教授。
ペブニー教授はロイターの電話インタビューで、「世界におけるロシアの地位とロシア人のアイデンティティーが揺らいでいる中で、プーチン氏はロシアの人々を自らの支配下に結集させるために再び教会の力に頼り、宗教の多様性を一切否定し、統一されたロシア正教会という観念を推進することで、ウクライナのような独立国の諸国民をロシアにつなぎ止めることを試みた」との考えを示した。
キリル総主教のプーチン氏支持の姿勢は、バチカンとの関係も悪化させた。
2016年、ローマ教皇フランシスコは、キリスト教が東方教会と西方教会に別れた1054年の大分裂以来、ロシア正教会の指導者と面会した最初のローマ教皇となった。
双方とも今年2度目の面会を実現したいと希望していたが、専門家らは、こうなっては事実上不可能だと話している。
(Philip Pullella記者、翻訳:エァクレーレン)
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