台湾はなぜ「政治的リスク」を冒してでも、福島の食品を「解禁」したのか?
Getting Closer to Japan
アメリカ産豚肉の輸入を再び制限するかが問われた昨年12月の住民投票に向けた集会で演説する蔡英文総統。蔡政権が進めた解禁継続が支持される結果に Ann Wang-Reuters
<住民投票や補欠選挙で自滅によって「連敗」する国民党を尻目に、強気の蔡英文政権が福島産食品の輸入緩和に踏み切った事情>
2011年の東日本大震災で東京電力福島第1原子力発電所が放射能漏れの事故を起こしたとき、台湾はいちはやく日本産の食品に輸入規制をかけた。あれから11年。その規制を緩和する計画案が、2月8日に発表された。
福島県と近隣4県で生産・加工された食品に対する10年以上にもわたる輸入規制は、台湾が日本との経済関係強化を図るなかで、大きな障害になってきた。今回の緩和案は、紆余曲折を経て、ようやく(しかし比較的予想外のタイミングで)示されたものだ。
蔡英文(ツァイ・インウェン)総統率いる民進党政権は、これを機に、日本が中心となっている「包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP)」への加盟に弾みがつくことを願っている。その一方で、今回の提案は蔡を「台湾の人々の食を危険にさらしている」という批判にさらすリスクもはらんでいる。
実際、日本産食品の輸入規制緩和措置は2018年に住民投票にかけられたことがあり、反対が多数を占めた(台湾では数年に1度、主要課題について住民投票が行われ、得票率によってはその結果が法的拘束力を持つ)。
蔡政権としては昨年12月の住民投票で、自らが進めてきたアメリカ産豚肉の輸入解禁が支持されたことに勢いを得て、今回、日本からの食品輸入規制も緩和する計画を明らかにしたようだ。
親中路線の国民党時代に輸入規制が
11年前の台湾の動きは早かった。当時は国民党の馬英九(マー・インチウ)総統の時代だったが、3月11日の震災後、15日には8食品群のロット別抜き取り検査が始まり、26日には8品目の輸入規制が始まった。
現在は野党となった国民党は、今回の輸入規制緩和案にさっそく反対の姿勢を示している。その反面、国民党は強力な原発推進策を掲げており、やはり2018年の住民投票にかけられた原発の段階的廃止案については、反対のキャンペーンを展開した。
これに対して、蔡が率いる民進党は一貫して原発に反対してきた。定期的に大きな地震に見舞われる台湾では、福島のような原発事故が起こる可能性が高いというのだ。
そもそも国民党は、中国との統一を目指して親中路線を掲げており、日本との関係強化を嫌ってきた。その反日感情は日中戦争にさかのぼる根深いものだ。日本からの食品輸入問題を、日台の接近阻止に利用したいという政治的動機があるのも驚きではない。
一方、民進党は日本との関係を強化して、万が一の台湾有事のときは、日本が台湾の肩を持つ政治的インセンティブを高めたいと考えている。