最新記事

追悼

【再録:石原慎太郎インタビュー】アメリカ人の神経を逆なでした男~石原慎太郎はなぜ『「NO」と言える日本』を書いたのか

Strong Words from Japan

2022年2月1日(火)18時25分
ジェフ・コープランド、ドリアン・ベンコイル

盛田の国際人としての名声に傷がついた

この本がアメリカでこれほど評判になったのは、盛田の知名度によるところが大きい。ソニー会長の盛田がアメリカで最も有名で最も好感を持たれている日本人ビジネスマンであるのに対し、石原はほとんど無名の存在だからだ。事実、盛田が担当した章はほとんど攻撃されていない。だがアメリカ人の多くは、盛田が石原の見解に同意するがゆえにその「名声を貸した」のだと受けとったきらいがある。

盛田は最近、ワシントン・ポストのコラムニストに対し、この本の出版を「後悔している」と語り、石原を「極端だ」と評した。また同書をアメリカで出版する意図はないとも語ったが、それはかえって国の内外で二つの顔を使い分けている印象を与えることになった。

エズラ・ヴォ―ゲル・ハーバード大学教授は、「国際人すぎる」という国内のイメージを打ち消そうとする盛田の勇み足だったのではないかと言う。これまで日米間のよき架け橋とみなされてきた盛田が今や問題の一部となったようだと、ロサンゼルス・タイムスは書いた。

盛田にとっては最悪のタイミングだった。ソニーがコロンビア映画社を買収し、全米に衝撃を与えたばかりだからだ。盛田は、問題の著書の公式な英訳出版を禁じたという。

ワシントンの対日強硬派は、格好の攻撃材料を見つけた。米政界で唯一人、海賊版を配布したことを認めたメル・レービン下院議員は、日本との競争が予想される高品位テレビ(HDTV)の生産に補助を出すよう要求している。

一部の議員たちはこの本を引き合いに出して、外国からの防衛関連産業への投資とソニーによるコロンビア買収を強く批判している。

「日本が、半導体をソ連に売ってアメリカに売らないと言えば......軍事力のバランスはがらりと変わる」とする石原の見解は、半導体の供給を外国に大幅に依存すべきでないというアメリカ国防総省の警告を裏づけているように思える。

もっともワシントンの貿易タカ派でさえ、アメリカの半導体生産能力が日本より劣っているとは考えていない。「石原はアメリカの軍需産業基盤を過小評価している」と、レビーンは語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、モスクワで北朝鮮外相と会談 1分間

ビジネス

米企業、株安で経営トップ交代加速 後任探しは旧態依

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.5%減 2カ月連

ワールド

イスラエル、ガザ攻撃継続 12人死亡 ハマスとの緩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 2
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王子の映像が話題に...「不幸なプリンセス」メーガン妃との最後の公務
  • 3
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄道計画が迷走中
  • 4
    「生野菜よりも、冷凍野菜のほうが健康的」...ブロッ…
  • 5
    ネアンデルタール人「絶滅」の理由「2集団が互いに無…
  • 6
    在日中国人「WeChatで生活、仕事、脱税」の実態...日…
  • 7
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 8
    「これぞプロ」 テイラー・スウィフト、歌唱中のハプ…
  • 9
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 10
    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 3
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 4
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 5
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 6
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 7
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 8
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 9
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…
  • 10
    「第3次大戦は既に始まっている...我々の予測は口に…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 7
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中