最新記事

文革

元紅衛兵の伯父は今も文革を夢見る

STILL WAITING

2021年11月30日(火)19時48分
キャロライン・カン(ジャーナリスト)

magSR211130_china3.jpg

「旧世界打倒」と記された札が貼られた浙江省の寺の仏像 AP/AFLO

ついに祖父もつるし上げに

やがて紅衛兵の標的は、モノから人へと移っていった。リーショイは変化を感じていたが、それを止めることも、自分を押しとどめることもできなかった。

当時、紅衛兵や準軍事組織の「民兵」がシュプレヒコールを唱える声が聞こえるたび、一家の子供たちは何が起きているのかを確かめに、表に駆け出した。ある日、紅衛兵らの声が近所の家の前で止まった。

そこに住んでいたのは60歳を超えた年老いた女性だった。夫が若いときに事業を営んでいて、そのせいで彼女は目を付けられた。写真の額の裏に隠されていた金の耳飾りを見つけた紅衛兵は、老女を外へ引きずり出し、腕ほどの太さがある木の棒で殴りつけた。

私の祖母から聞いた話によれば、同じ冬、村の数少ない地主の1人であるフーという男性が、中華人民共和国建国以前に「極度に罪深く、邪悪」な行為に従事していたことが判明した。

紅衛兵は凍結した川面に穴を開け、フーを大きな石に縛り付けて穴に押し込んだ。叫び声と水中でもがく音が聞こえた。それから辺りは静まり、風の音だけが聞こえたという。

恵まれた過去が復讐に来る

自分も同じ目に遭うのではないかと、リーショイの祖父は不安だった。財産は既に賭け事で失っていたが、いくつもの目が自分の過去をにらみつけているような気がした。若主人の身分にあり、儒教の教育を受け、第2夫人がいて、共産党政権樹立以前の国民党時代に村長をしていた過去を......。

かつて日本軍が村を通過した際、祖父は彼らと交渉し、寛大な処置と引き換えに食事や贈り物を提供した。

このときのことについて、孫娘である私の母が話を聞いたことがある。「日本軍はこの村の住民を誰一人殺さなかった。それは、私が力を尽くしたからじゃないのか?」と、祖父は言ったという。「近隣の村では大勢が殺された。間違ったことをしたとは思っていない」

だが文革当時は、そんなことは関係なかった。祖父は壇上に登り、批判を受けることを強要された。「反動分子」を意味する三角帽子をかぶらされ、自身が犯した罪を数え上げることを迫られた。

さらに報復が続き、家族も標的になるかもしれない。そう懸念したリーショイは、祖父の家を訪れて自己批判文を書く手助けした。

「祖父は年を取って目の病気にかかっていたから、話してくれることを私が書き留めた」と、リーショイは振り返る。「紅衛兵に受けがいいことを書くよう指導もした。いくつかの文章を覚えている。『私は1899年に生まれた。8歳のときから家庭教師の下で四書五経を学んだ。自らの過去を心から深く省みる』といった文章だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ビジネス

中国、来年の消費財下取りに89億ドル割り当て スマ

ワールド

カンボジアとの停戦維持、合意違反でタイは兵士解放を

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中