最新記事

文革

元紅衛兵の伯父は今も文革を夢見る

STILL WAITING

2021年11月30日(火)19時48分
キャロライン・カン(ジャーナリスト)

magSR211130_china2.jpg

三角帽子姿の「反動分子」をつるし上げる紅衛兵 EVERETT COLLECTION/AFLO

当初は、紅衛兵になるといいこともあった。人民公社では政治活動に多くの時間が費やされ、農作業はあまりやらなくてもよくなった。弟や妹は学校に行く必要がなくなった。

ある日、「4つの古いもの」(古い習慣、古い文化、古い風俗、古い思想)を破壊せよという「上からの指令」が伝わってきた。そこで紅衛兵は、村の家々を捜索して、この漠然とした4つのカテゴリーに該当するものを押収することにした。それは伝統的な絵画かもしれないし、テーブルかもしれない。

真っ先に標的になった家の1つに、リーショイの祖父(私にとっては曽祖父)の家があった。祖父は少しでも処罰が軽くなるかもしれないと、書籍や絵画を自ら紅衛兵(そこには自分の孫もいた)に差し出した。紅衛兵はその本と絵画を庭に山積みにして火を放った。祖父は、さらに誠意をアピールするために、その火で湯を沸かしてみせた。

リーショイは他の紅衛兵に連れられて、村外れの墓地にも行った。彼らは先祖たちの墓を掘り返し、棺桶を破壊し、そこに納められていた宝飾品を略奪し、遺骨は地上に放置した。わが家の墓も荒らされた。

墓荒らしも「畑を作るため」

それでも、リーショイは申し訳なかったとは思っていない。墓荒らしの目的は、その土地を畑に転用するためだったからだというのだ。そして紅衛兵の仲間たちと何度も墓地に行ったことを認めつつ、自分は何も盗んでいないと言い張った。

宝飾品を盗んだのは「リーダーたちだ」と、リーショイは言った。「彼らが(奪った)金の耳飾りや腕輪をどうしたかは誰も知らない」。そして紅衛兵の仲間がやったことは「完全に間違っていた」と語る。

紅衛兵は、人々から大いに愛されていた舞台芸術である京劇も村から追放した。ある日、村の寺院を破壊した帰りに、京劇の舞台装置や衣装が保管されている倉庫に立ち寄り、それを焼き払ったのだ。

リーショイは一瞬、京劇をこよなく愛する父(私にとっては祖父)のことが頭をよぎったという。村で京劇が上演されるときは、父が出演することも多かった。リーショイが幼い頃は、息子を舞台に上げて、小さなセリフを言わせてくれたりした。

私の祖父は他界するその日まで、ラジオを傍らに置き、伝説の京劇俳優・梅蘭芳(メイ・ランファン)の歌に聞き入っていたものだ。それほど大切にしていたものを、かつて実の息子に焼き払われたことをどう思ったのか、私が祖父に聞くチャンスはなかった。伝統的な京劇が禁止され、8編の「革命模範劇」だけが上演を許されている時期、祖父が京劇の歌を口ずさむことは一度もなかったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中