最新記事

文革

元紅衛兵の伯父は今も文革を夢見る

STILL WAITING

2021年11月30日(火)19時48分
キャロライン・カン(ジャーナリスト)

それでもリーショイは、祖父が味わった苦しみについて、紅衛兵を非難しようとはしなかった。

「私たちは忠誠心を持ち、毛主席の指針に忠実だった。もっと重要なことに、私たちは正しく有意義なことをしていると信じていた」。リーショイに言わせれば、中国の社会主義は「あの頃、反革命分子がもたらす大きな困難に直面していた」のだ。

ところが、76年になって全てが終わりを告げた。その年の7月、リーショイの村で起きた地震で多くの人が亡くなり、古い家々は崩れ落ちた。9月には毛が死んだ。10月、伯父は村の拡声機から新たな発表を聞いた。文革を主導した「四人組」が失脚し、革命は終結した、と。

「第2の毛」への落胆と期待

われに返ったリーショイは再び農夫になった。当時の写真の中の伯父は、白いシャツに緑の軍用ズボンに軍帽姿で、若々しく、うれしそうだ。

その後の展開は中国の社会主義にとっても、伯父にとってもよりよいものではなかった。中国は、自分が青春を犠牲にして守ろうと戦った価値観、つまり労働者や農民を国家のあるじとする社会主義を投げ捨てたと、リーショイは憤慨している。

若かった頃は、社会主義が無階級社会を実現すると信じていた。自分が「毛主席の優秀な生徒」だったことは、今でも誇りに思っている。毛が58年に開始した経済政策「大躍進」(飢饉を招く大失敗に終わった)の最中には、鉄鋼生産のために鉄製の農具さえも供出するよう、両親に訴えた数少ない子供たちの1人だった。いまだに毛のことは呼び捨てにせず、必ず「毛主席」と呼ぶ。

だが極度に格差が広がる現代の中国で、リーショイは皮肉な冗談めいた存在だ。天津の郊外で暮らし、収入は月額15ドル相当の年金だけだという。相変わらず政治談議が好きで、「文革の目的は正しかった」と譲らない。「今の中国社会には文革の前向きな精神が欠けている」

これは大真面目な主張だ。「文革の間は、誰も今みたいに権力を乱用しようとしなかった」と、リーショイは力説する。「農民や労働者が国家の真の主人のようだった。それが今はどうだ? 高官は権力者で、資本主義者があふれている」

中国国内の村落では、役人の一部は民主主義に近い手法で選出されている。それでも「奴らの99%は、賄賂を渡したおかげで選ばれたに決まっている」と言い張る。

2013年を迎えた頃、反腐敗運動に乗り出した習近平(シー・チンピン)国家主席の肖像が家の壁に飾られるようになった。伯父は興奮して、習のキャンペーンを毛が63年に始めた「四清運動」に例えていた。官僚機構の清浄化という名目の下で「反動分子」を排除しようとした運動だ。だが伯父にとって残念なことに、新たな文化大革命が始まることはなく、私が最後に家を訪ねたとき習の肖像は壁から姿を消していた。

リーショイは今も「そのとき」を待ち続けている。

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中