最新記事

エネルギー

再生可能エネばかりを重視したヨーロッパがはまったエネルギー危機

EUROPE’S ENERGY LESSONS

2021年10月14日(木)18時13分
ブレンダ・シェーファー(民主主義防衛財団エネルギー問題上級顧問)

211019P44_ENG_03.jpg

原発の閉鎖は相次ぐ(ドイツのバイエルン州) KARL-JOSEF HILDENBRANDーPICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

また、再生可能エネルギーに莫大な投資をしながら、ヨーロッパは電力供給の要となる送配電網への投資をおろそかにしてきた。電力の安定供給には蓄電システムやバックアップ電源の確保、送配電網の整備など複雑な体制づくりが必要で、とても民間だけでは対応できない。

電力会社に適切な蓄電とバックアップの体制を義務付けるのが無理なら、政府自身がその責任を果たすしかない。電気自動車のために補助金を大盤振る舞いして電力の使用を増やす一方で、そこで生じる需要増に見合うだけの電力供給体制を用意しないとすれば、大規模停電のお膳立てをしているようなものだ。

エネルギー地政学への関与をやめた欧州

最後に、ヨーロッパ各国はエネルギー地政学への関与をやめてしまった。EUはかつて、域内の天然ガスパイプライン網を構築し、カスピ海沿岸からの新しい天然ガス輸送プロジェクトなどを進め、エネルギー安全保障の強化に成功した。

こうしてヨーロッパにおけるガス供給の安全は高まり、多くの地域でロシアの独占は失われた。だが現在の欧州委員会はエネルギー政策を気候政策の一部としており、安全保障や手頃な価格のエネルギー供給にはほとんど注意を払っていない。

地中海東部などの比較的近い場所でも新しい天然ガス資源が発見されているのに、EUの指導者たちは環境活動家の圧力に屈し、新たに利用可能な資源の開発に真剣に取り組もうとしていない。

また福島第一原発の事故以来、ドイツを含む一部の諸国が原子力発電所の閉鎖や順次廃止に踏み切ったため、安全で安定したクリーンなエネルギー源が失われたことも、現下のエネルギー危機の要因の1つだ。

アメリカも同じ道を歩み、遠からずヨーロッパ的な危機を招くのだろうか? 状況は似ている。今年2月の寒波で起きたテキサス州の電力危機や8月のカリフォルニア州の計画停電は、今後起こりそうな事態の前触れかもしれない。

アメリカもエネルギー地政学に背を向けようとしている。バイデン政権はパンデミックでエネルギー需要が急減した後、国内の石油・ガス生産の再開を抑制している。石油・ガスへの民間投資も、化石燃料からの撤退を求める国際社会の圧力や世論の動向、そして投資家の意向によって抑えられている。

アメリカ政府はOPEC(石油輸出国機構)からの輸入を増やせばいいと考えているようだが、それでは化石燃料の生産地がアメリカから外国に移るだけで、環境問題の改善にはならない。またエネルギー安全保障上の新たな懸念も生じる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反発、米半導体規制への思惑が買い戻

ワールド

米、対中半導体規制強化を準備 従来案ほど踏み込まず

ビジネス

24年度税収が過去最高へ、補正で73兆円台半ばに増

ビジネス

中国BYD、サプライヤーに値下げを要請=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式トレーニング「ラッキング」とは何か?
  • 3
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウクライナ無人機攻撃の標的に 「巨大な炎」が撮影される
  • 4
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 5
    「健康食材」サーモンがさほど健康的ではない可能性.…
  • 6
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 7
    「健康寿命」を2歳伸ばす...日本生命が7万人の全役員…
  • 8
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 9
    未婚化・少子化の裏で進行する、「持てる者」と「持…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中