最新記事

BOOKS

ヤクザの腕を切り落とした半グレ「怒羅権」創設期メンバーが本を書いた理由

2021年6月28日(月)17時05分
印南敦史(作家、書評家)


 記憶に残っているのは、葛西のとあるマンションです。屋上に通じる階段の脇に機械室があり、鍵がかかっておらず、寝泊まりができたのです。屋外で眠ると、夏でも朝方は冷え込むので、雨風がしのげるのはとてもありがたいことでした。
この機械室では同世代の子どもたちが寝泊りしていました。中国語で故郷のことや学校のことを話しました。でも、あまり家庭の話はしません。
 しかし、なんとなく「この子にはお父さんがいないのだろうな」とか「家でうまくいっていないのだろうな」と感じていました。
 そのようにしていくつも夜を過ごすうちに、私たちは仲間になっていきました。(53ページより)

一方、日本人同級生たちからのいじめは激しくなっていき、罵られたり殴られたりする残留孤児2世が大勢いた。

日本人を理解しようと努力する子や、思い詰めて自殺する子まで、残留孤児2世のいじめに対する反応はさまざま。当然ながら抵抗するタイプもおり、著者もそのひとりだった。


 葛西中学校に転入してから半年くらい経った頃、初めて日本人の同級生を殴りました。(中略)何がきっかけだったかはよく思い出せませんが、なぜ自分がいじめられなければならないのか猛烈に理不尽さを感じ、気がついたらその子に食って掛かっていたのです。(中略)。この後、私が辿った人生を考えれば、喧嘩とも言えないような喧嘩ですが、これは大きな転機の1つになったように思います。(56~57ページより)

怒羅権が誕生したのも、こうしたいじめに抵抗するためだった。学校内で暴力事件が起これば、学校が親を呼び、やめさせることになるだろう。しかし残留孤児2世の親はいろいろな意味で余裕がなく、子ども以上に日本語が理解できない。つまり止める者がいないため、暴力はさらにエスカレートしていく。


 いじめてきた不良を殴り返したら、仲間の上級生を呼んでくるようになります。上級生とやりあううちに学校の外の暴走族が呼ばれるようになります。暴走族に襲撃されるようになると、私たちも登下校のときに固まって行動するようになり、やがてチームになっていきました。
 現在の怒羅権は犯罪集団ですが、当初は自然発生的に誕生した助け合いのチームだったのです。(57~58ページより)

ナイフを躊躇なく使ったのも理由があった

自衛のチームだった怒羅権は、やがて暴走族となり、そののち半グレと呼ばれる犯罪集団になっていく。しかし、本書で時系列に従って克明に明かされるそのプロセスやエピソードを確認すれば、決してただ凶暴なだけの集団ではなかったことが分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月PPI、前年比2.7%上昇 エネルギー高と関

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、10月は1.9%上昇 ローン

ビジネス

米9月小売売上高0.2%増、予想下回る 消費失速を

ワールド

欧州司法裁、同性婚の域内承認命じる ポーランドを批
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中