最新記事

BOOKS

ヤクザの腕を切り落とした半グレ「怒羅権」創設期メンバーが本を書いた理由

2021年6月28日(月)17時05分
印南敦史(作家、書評家)
『怒羅権と私――創設期メンバーの怒りと悲しみの半生』

Newsweek Japan

<中国残留孤児2世、3世が結成し、凶行で悪名を轟かせた怒羅権だが、元は生き残るため、助け合いのための集団だった>

「怒羅権(ドラゴン)」という名に聞き覚えのある人は少なくないだろう。1980年代後半の東京都江戸川区葛西で、中国残留孤児2世、3世によって結成された「半グレ」集団である。

『怒羅権と私――創設期メンバーの怒りと悲しみの半生』(汪楠・著、彩図社)の著者は、そんな怒羅権の創設期からのメンバーである。本作表紙に確認できる表情は柔らかだが、その反省は決して穏やかなものではなかった。


 私自身、ヤクザの腕を切り落としたり、窃盗グループを率いて数億円を荒稼ぎしたりと多くの犯罪に手を染めてきました。そして28歳で逮捕され、13年間刑務所に服役することになります。
 出所した今、なぜこの本を書こうとしたのかというと、自分たちがどのような思いで怒羅権をつくったのかを書き残したいという願望があるためです。(「はじめに」より)

最も重要なのは、この文章の後半、すなわち「どのような思いで怒羅権をつくったのか」という部分である。

ヤクザの腕を切り落としたというようなエピソードがどうしても目立ってしまうし、それは事実でもある。だが、そもそも怒羅権は、犯罪集団を目指して結成されたわけではなかった。当初は、日本社会で貧困や差別に苦しみながら孤立していた中国残留孤児たちが生き残るため、助け合いのために手を組んだ集団だったのだ。

もちろん、だからといって彼らの凶行を肯定できるわけではない。とはいえ、そこをしっかりと見据えないと、本質を見誤る可能性がある。

エリート家系に生まれた著者にとって、腕のいい外科医として知られた父親は自慢の存在だった。ところが文化大革命の影響を受け、そんな父親は政治犯として収監される。一家は離散状態となり、著者は激変した環境に戸惑いながら喧嘩を繰り返すようになっていく。

そして14歳の誕生日だった1986年4月14日、既に牢獄から解放されて日本に移り住んでいた父親に呼ばれ、海を渡ってきたのだった。

1980年代は中国残留孤児の日本への帰国が本格化した時代で、著者が日本に渡った背景にもそうした流れの影響があったようだ。著者自身は残留孤児ではなく両親はともに中国人だったが、離婚後に残留孤児1世の女性と再婚していた父親に呼び寄せられたのだ。

しかし、編入した葛西中学校では差別を受け、家庭にも居場所がなかった。家にいたくないという気持ちが日増しに大きくなっていき、公園や橋の下にダンボールを敷いて眠るようになった。同じような境遇の子たちと知り合ったのも、その頃のことだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバス、11月の納入数が減少 胴体パネル問題で

ワールド

台湾最大野党主席、中国版インスタの禁止措置は検閲と

ビジネス

ドイツ景気回復、来年も抑制 国際貿易が低迷=IW研

ワールド

台湾、中国の軍事活動に懸念表明 ロイター報道受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中