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新型コロナウイルス

ワクチンが怖い人にこそ読んでほしい──1年でワクチン開発ができた理由 

2021年6月29日(火)11時00分
新妻耕太(スタンフォード大学博士研究員)※アステイオン94より転載

しかしスパイクタンパク質の合成には大量の細胞を用意して、設計情報(遺伝情報物質)を細胞内部に届けて合成するというステップが必要で、これもなお多大な時間とコストがかかる。この背景を踏まえて白羽の矢が立ったのが遺伝情報を私たちの体に届けて、私たちの体内でスパイクタンパク質を生産し、それに対する免疫応答を誘導するmRNAタイプのワクチンなのである。

ファイザー・ビオンテック社やモデルナ社が使用しており、すでに工業的な大量生産技術が確立されていたこと、それを用いたワクチン技術の開発は10年来行われてきていたこと、新型コロナウイルスによく似たSARSの原因ウイルスの基礎研究知見が蓄積されていたことの不幸中の幸いが重なった結果、驚くほど素早く開発が行われた。

さらにアメリカではトランプ前大統領がワープスピード作戦で製薬会社に対する莫大な投資を行ったこと、アメリカの感染大流行により臨床試験の進行が早かったこと、いくつかの段階の動物実験や臨床試験を同時並行で行ったこと、ワクチンに関する審議を優先的に行ったことにより開発からたった1年で緊急使用許可が下りるに至った。

これは歴史的な快挙であり、私たちはパンデミックに対抗する際の新しい切り札を得たと言える。このスキームは今後現在のワクチンが効かなくなってしまうような変異ウイルスが現れた場合や、また新しい感染症が発生した時にも第一手になるだろう。

そのmRNAは非常に構造が不安定な物質なので、接種後数日間もたてば分解されて消失する特徴を持つ。さらにはmRNAが私たちの遺伝子を組み替えることは原理上万に一つも起こり得ないので、子や孫といった次世代の影響を心配する必要もない。一方で構造の不安定さから超低温での保管が必要となる短所もある。さらにmRNAワクチンは十分な免疫の誘導に2回の接種が必要なため、冷凍設備を整えにくい新興国の人々へ届ける上での大きな障壁となりうる。

一方でアメリカでは2月27日にジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した1回の接種で済み冷蔵庫での保管が可能なアデノウイルスベクターワクチンの緊急使用許可が出された。これは私たちの体に病気を引き起こさないアデノウイルスにスパイクタンパク質の設計情報を搭載し、私たちの細胞に輸送するタイプのワクチンである。このように複数の種類のモダリティー(様式)を持つことが、1日も早く地球全体での集団免疫を成立させるために必要となる。

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