最新記事

新型コロナウイルス

ワクチンが怖い人にこそ読んでほしい──1年でワクチン開発ができた理由 

2021年6月29日(火)11時00分
新妻耕太(スタンフォード大学博士研究員)※アステイオン94より転載

第一隊の自然免疫は迅速な対処を得意とする。ウイルスによる組織障害を察知した自然免疫細胞達は現場へとただちに急行し炎症を誘導する。例えば怪我をした時、患部が赤く腫れ熱をもって痛むのは免疫細胞による炎症によって引き起こされる反応だ。炎症は自然免疫細胞を鼓舞する(活性化する)効果があり、活性化した自然免疫細胞は感染細胞の死骸を食べて掃除する。この第一隊でもウイルスの撃退ができなかった場合に第二隊が動きだす。

第二隊の獲得免疫は、相手に合わせた攻撃を行う戦闘のスペシャリスト集団であり、先述した免疫記憶もつかさどる。私たちの体の中にはあらゆる侵入者にそれぞれ対応できる獲得免疫細胞達があらかじめ備わっており、その時侵入してきた敵に対応できるスペシャリストのみが大量に分身して(増殖して)出陣する。

この選ばれたスペシャリストの細胞が増える現象は基本的にリンパ節で起きる。感染によってリンパ節が腫れるのは獲得免疫細胞の増殖によるものなのだ。今では一般におなじみとなった存在である〝抗体〞を分泌するB細胞も獲得免疫細胞の一種である。

この抗体はY字型をしたタンパク質で、上部先端の二カ所を使ってターゲットに強力に結合する。抗体がウイルスのトゲ(スパイクタンパク質)に上手くまとわりつけば、ウイルスが細胞に入る能力を失わせることができる(中和)。ウイルスの撃退に成功すると、先ほど増えた獲得免疫細胞達は次第に数を減らしていき、生き残った少数の細胞が記憶細胞として保存される。

二度目に全く同じ病原体が体に侵入した際、記憶細胞は前回の経験に基づいて迅速に対応するので、効率よく病原体の排除ができて重症化が防げるのだ。この免疫記憶の形成を、人為的にリスクを減らして感染を模倣する形で誘導するというコンセプトで生まれた予防薬こそがワクチンなのである。

超低温でしか保存できない理由

これまで一般的だったワクチンは主に生ワクチンと不活化ワクチンであった。どちらも病原体そのものを材料にしていることが特徴で、生ワクチンは症状を起こしにくい弱毒化株を、不活化ワクチンは病原体を薬品で殺したものを使用する。しかし、これらのワクチンの生産には病原体そのものの大量生産が必要なため、新しい病原体の工業生産技術自体を開発から行う必要があるので多大な時間とコストがかかる。

そこで、パンデミック収束のために1日でも早くワクチンを開発する上で注目されたのが、病原体そのものではなくトゲ(スパイクタンパク質)のみにターゲットを絞って免疫記憶を誘導するストラテジーである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ヒズボラ、レバノン政府による武装解除第2段階の4カ

ワールド

トランプ氏、日本の対米投資第1号発表 3州でガス発

ワールド

英王子創設のアースショット賞、26年表彰式はムンバ

ワールド

英右派政党リフォームUK、中銀と予算責任局の改革を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    極超音速ミサイルが通常戦力化する世界では、グリー…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    アメリカが警告を発する「チクングニアウイルス」と…
  • 10
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中