最新記事

米中関係

バイデンが対中トランプ関税を撤廃すべき3つの理由

DUMP TRUMP’S CHINA TARIFFS

2021年3月23日(火)18時00分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
中国との貿易協定に署名したトランプ

中国との貿易協定に笑顔で署名したトランプだが(2020年1月) Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプ関税の継続は、バイデンが掲げる経済回復という目標の足を引っ張ることになる>

トランプ前米大統領は在任中、何度も対中関税を引き上げた。2017年1月の就任時に平均で約3%だった対中関税は、19年末に20%を超えていた。

その結果として対中関税は、1930年代前半に国内産業保護を目的に輸入品の関税を大幅に引き上げるスムート・ホーリー法が制定された頃と同水準になった。多くのエコノミストが大恐慌の深刻化を招いたとしている法律だ。

バイデン大統領はトランプの政策の多くを撤回している。今後、対中関税についても撤廃するか否かを決断することになるだろう。

バイデンには、対中関税を撤廃すべき重要な理由が3つある。①対中関税はアメリカの労働者や企業に打撃をもたらす。②貿易赤字の削減にはつながらない。③世界経済のルールに対する敬意を損ねた――の3つだ。

これまでエコノミストが行ってきた調査のうち、トランプが引き起こした対中貿易戦争がアメリカの国民と企業に利益をもたらしたことを示すものは一つもない。

ニューヨーク連邦準備銀行のメアリー・アミティらは、18年に6回にわたって行われた対中関税の引き上げについて調査した。中国はその報復としてアメリカ製品に対する追加関税率を3.5%から18年には10.6%に引き上げており、これによって増えたアメリカ側の負担のほぼ全てが消費者価格に転嫁されたと指摘した。

連邦政府の収入は増えたが

一方、一連の関税引き上げの影響で中国以外の国からの輸入品価格も高騰していた。トランプ関税で連邦政府の収入は増えたが、それは単にアメリカの各世帯が持つ金が財務省に移動しただけのことだった。その他の調査も同様の結論に達している。

トランプ関税は、アメリカの貿易収支の改善にも役立たなかった。19年の対中貿易赤字(約3450億ドル)は、オバマ政権時の16年とほぼ同水準だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中