最新記事
フォーラム

繰り返される衰退論、「アメリカの世紀」はこれからも続くのか

2021年1月20日(水)13時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■小濵: 確かに「アメリカ衰退論」は、繰り返されてきたとは思いますが、今回ばかりは今までと少し違うのではないかと思うことがあります。アメリカ社会の内なる問題ということですけど、学問の領域でもアメリカ政治史や外交史のような形で国家を語ること自体が批判的に捉えられ、国家の枠にとどまらない人やモノの移動に光を当てることが重視されるという風潮があります。

清水さゆり氏が「『アメリカの世紀』と人種問題の蹉跌」でも指摘されていましたが、アメリカ南部では南北戦争に関わる記念碑を撤去して「政治的に正しくない」歴史を公共の場から消そうとする動きもあります。現在では、そもそもアメリカという国を語るということ自体が難しいことになってしまいました。これは今まであまり経験してこなかったことなのではないかと思っていますが、どうでしょうか。

■待鳥: 例えば多文化主義がアメリカの統合原理や普遍のロジックを壊すという議論は新しいものではなく、80年代からすでにあります。しかし、自分たちがやることが普遍だというロジックで語り続ける限り、多文化主義でもアメリカ史でも何でも、全て普遍的に広がらなくてはなりません。すると「アメリカという枠」を超えてしまうわけです。小濵先生が感じられていることもそういう現象であり、それが今起こっているのではないかと思います。

■田所: やはりアメリカは巨大な国で、あのサイズで1つの国でやってること自体がそもそも奇跡です。ですから広大な場所で極めて多様なものを一緒にやっていくということに建国以来ずっと直面してきたわけです。州ごとには全然違うけれど、合衆国憲法だけは一緒にやってお互い協働していこうじゃないか、と。しかし、それが破綻したのが南北戦争です。

日本にいると忘れがちですけど、南北戦争はおそらくアメリカにとっては最も消耗率の高い戦いでした。60万人を越える戦死者は当時のアメリカの人口からすると極度に激しい戦争です。これは一種、宗教戦争の様相もあり、第二次世界大戦のように英雄的な物語ではありません。しかし、アメリカでは、この戦争が大きな悲劇として記憶されたと同時に、それを乗り越えてもう一度アメリカを再建したのだという誇りの物語でもあるのです。

平井康大氏が「島宇宙のアメリカ」で言及されたように、アメリカはメイフラワー号で来たピューリタンの人たちだけではなく、ものすごく様々な宗派の人たちによって成立しています。これらの多様な人たちが何とか共存していく空間をつくっているのがアメリカであり、そこで私たちは一緒にやっていくのだというダイナミズムがアメリカ史なのではないかと思っています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中