繰り返される衰退論、「アメリカの世紀」はこれからも続くのか
(左から)田所昌幸・慶應義塾大学教授、小濵祥子・北海道大学准教授、待鳥聡史・京都大学教授 写真:サントリー文化財団
<トランプからバイデンへと代わるが、今後のアメリカはどうなるか。今回の「アメリカ衰退論」はこれまでと違うのか、アメリカ・ファーストとは何だったのか......。フォーラム『新しい「アメリカの世紀」?』より(前編)>
2021年1月20日、バイデン政権へと交代する。「アメリカの終焉」「超大国アメリカの没落」など、「アメリカの世紀の終わり」はしばしば議論されてきた。それでもアメリカの動向に世界がいまだに注目し続けていること自体は、現在も「アメリカの世紀」が続いていることを示唆している。
しかし、今後のアメリカはどうか? 論壇誌「アステイオン」編集委員長の田所昌幸・慶應義塾大学教授と、同編集委員で特集責任者の待鳥聡史・京都大学教授が、小濵祥子・北海道大学准教授をゲストに迎え議論した。2020年12月に行われたオンラインフォーラム『新しい「アメリカの世紀」?』(主催:サントリー文化財団)を再構成し、掲載する(前編)。
差異を普遍化しようとするアメリカ
■小濵: 1941年、アメリカ人ジャーナリストのヘンリー・ルースは20世紀を「アメリカの世紀」だと喝破しました。アメリカが物質的に圧倒的なパワーを持ち、その価値観が世界中を魅了している中で、世界における指導力を今こそ発揮し自由と民主主義を守るための戦い(第二次世界大戦)に本格参戦すべきだとアメリカ国民へ呼びかけたわけです。
しかし、物質的なパワーという意味では現在のアメリカは相対的に低下しつつあり、またアメリカの価値観の魅力という点でも揺らいでいます。今回の「アステイオン」(93号)の特集「新しい『アメリカの世紀』?」は、その揺らぎがアメリカ国内、アメリカ人自身にも起きているということを示唆する論考が多く、アメリカ社会の抱える問題の深刻さを感じさせました。特に自分らしく生きるという個人のアイデンティティと、アメリカ国民や市民といった共同体意識をつなぐものが弱体化しているという問題が大きいと思います。
例えば、ジャーナリストの金成隆一氏は「真ん中が抜け落ちた国で」において教会や労働組合、メディアといったかつては「真ん中」で個人と社会をつないでいたものが失われている現状を指摘していました。また、政治学者のマーク・リラ氏は「液状化社会」で、個人と社会の関係が「液状化」し不安定になっている現状に既存政党が充分に対応できていないと論じています。
(参考記事:労組に入らず、教会に通わない──真ん中が抜け落ちたアメリカ/金成隆一 ※アステイオン93より転載)
■田所: そもそもアメリカは多様な人たちが集まってできた国で、どういう原理で一緒になっているのかという前提は重要ですよね。おそらくその原理が今までは民主主義や自由だったのだと思いますが、かつてほどに自信を持てず、多くの人が不安に思っているようにも見えます。