最新記事

感染症対策

コロナワクチン確保競争激化 EUが輸出監視強化、英は契約履行要請

2021年1月29日(金)09時55分

欧州で新型コロナウイルスワクチン確保に向けた競争が激化している。英製薬アストラゼネカのワクチン供給遅延を受け、欧州連合はワクチン輸出の監視強化に踏み切るほか、英国は同社に供給契約を履行するよう求めている。英ブラックプールで25日代表撮影(2021年 ロイター)

欧州で新型コロナウイルスワクチン確保に向けた競争が激化している。英製薬アストラゼネカの新型コロナワクチン供給遅延を受け、欧州連合(EU)はワクチン輸出の監視強化に踏み切るほか、英国は同社に供給契約を履行するよう求めている。

EUはアストラゼネカの供給遅延を批判した上で、英国向けのワクチン供給をEUに振り向ける可能性を打診。さらに、欧州委員会は29日、域内からの新型コロナワクチン輸出を巡る通知・認可制度の詳細を明らかにする。

EU高官は、ワクチン輸出監視強化が輸出禁止措置ではないとしつつも、ワクチンメーカーが約束を守らなければ、輸出禁止に動く可能性もあるとけん制。「ワクチン出荷を巡る状況は透明性に欠き、EU全体に懸念を招いている。われわれには解決策を探る義務がある」と述べた。

EUのワクチン輸出監視強化は数日中に導入され、第1・四半期末まで施行される見通し。延長される可能性もある。

同措置の実施によって、英国やカナダ向けのワクチン供給に影響が出る恐れがある。米ファイザーはベルギーでワクチンを製造する。

また、欧州連合(EU)のミシェル大統領は28日、新型コロナワクチンの確保について、供給遅延を巡る問題が製造会社との協議で解消できない場合、EUとして法的措置を検討する必要があるとの考えを示した。

英国のゴーブ内閣府担当相は「英国が調達したワクチンが全て供給されることを確実にする必要がある」と強調。アストラゼネカ製ワクチンの英国からEUへの輸出を阻止するかとの質問に対しては、英国が計画通りに供給を受けることが不可欠と応じた。

アストラゼネカのソリオ最高経営責任者(CEO)はEU向けの供給遅延について、契約締結が英国よりも3カ月遅かったため、生産上の問題に対処する十分な時間がなかったと説明した。

独紙フランクフルター・アルゲマイネによると、EUとの確執が深まる中、アストラゼネカはEUと締結したワクチン供給契約を公表する用意を進めており、29日に公表を避けるべき項目に関する提案を欧州委に行う見通し。

同紙はEU筋の情報として、アストラゼネカによる第1・四半期のワクチン供給量は予定されていた8000万回分に届かないものの、これまでに報じられている3100万回分は上回る見通しと伝えた。

アストラゼネカのほか、ファイザー製ワクチンの供給も遅れていることから欧州のワクチン接種計画には狂いが生じ、ドイツやフランス、スペインでは接種の中止や延期に追い込まれている。

仏保健当局者らによると、同国の人口の約3分の1を占めるパリと近郊2地域で2月2日から予定されていた接種が延期される。

ドイツのシュパーン保健相は国内のワクチン不足が4月まで続く恐れがあるとし、州首相とワクチン接種計画を巡る会議を召集した。関係筋によると、会議は週明け2月1日に開催される可能性がある。

世界保健機関(WHO)のクルーゲ欧州地域事務局長は「ワクチン不足が生じていることは現実だ」としつつも、製薬会社が不足解消に向け専念しているとし、各国に忍耐を促した。

同氏によると、これまでに欧州35カ国で計2500万回分のワクチン接種が行われた。

英国では710万人が1回目の接種を終えている。

人口当たりのワクチン接種回数ではイスラエルが世界でトップ。次いでアラブ首長国連邦(UAE)、英国、バーレーン、米国が上位を占め、イタリア、ドイツ、フランス、中国、ロシアが続く。

*内容を追加しました。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...



20241001issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年10月1日号(9月25日発売)は「羽生結弦が能登に伝えたい思い」特集。【ロングインタビュー】被災地支援を続ける羽生結弦が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、空爆でヒズボラ指導者ナスララ師殺害 イ

ワールド

石破自民新総裁、林官房長官続投の意向 財務相は加藤

ワールド

イスラエル、ヒズボラ本部を空爆 指導者ナスララ師標

ワールド

ハリス氏、南部国境地域を訪問 不法移民の取り締まり
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
特集:羽生結弦が能登に伝えたい思い
2024年10月 1日号(9/24発売)

被災地支援を続ける羽生結弦が語った、3.11の記憶と震災を生きる意味

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 2
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッション」に世界が驚いた瞬間が再び話題に
  • 3
    【クイズ】「バッハ(Bach)」はドイツ語でどういう意味?
  • 4
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断さ…
  • 5
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 6
    メーガン妃が編集したヴォーグ誌「15人の女性をフィ…
  • 7
    自民党総裁選、石破氏選出を韓国メディア速報「極右…
  • 8
    中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそ…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
  • 1
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ日本の伝統文化? カギは大手メディアが仕掛ける「伝検」
  • 2
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感...世界が魅了された5つの瞬間
  • 3
    ワーテルローの戦い、発掘で見つかった大量の切断された手足と戦場の記憶
  • 4
    白米が玄米よりもヘルシーに
  • 5
    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…
  • 6
    メーガン妃に大打撃、「因縁の一件」とは?...キャサ…
  • 7
    先住民が遺した壁画に「当時の人類が見たはずがない…
  • 8
    50年前にシングルマザーとなった女性は、いま荒川の…
  • 9
    中国で牛乳受難、国家推奨にもかかわらず消費者はそ…
  • 10
    NewJeans所属事務所問題で揺れるHYBE、投資指標は韓…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 7
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 8
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 9
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 10
    無数のハムスターが飛行機内で「大脱走」...ハムパニ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中