2020年年金改革の全体像と次期改革の展望
2020年改革には前述の内容が盛り込まれたが、2016年改革後に積み残しの課題となっていたマクロ経済スライドの徹底(常時完全適用)や基礎年金の加入期間延長、65歳以降の在職老齢年金などは、今回も改正に盛り込まれなかった(図表6)。また、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大は、2019年8月のオプション試算には3通り(125万人・325万人・1050万人)の案が盛り込まれていたが、最終的な改正内容は65万人規模の拡大にとどまった。その結果、当初の法案にも3項目の検討規定があったが、国会審議の過程でさらに3項目が追加され(図表7)、政府に検討を求める附帯決議も行われた3。
その中でも注目されるのが、検討規定の第1項に盛り込まれた「所得再分配機能の強化」である。これは、図表4で説明した現役時代に給与が少ないほど年金全体の低下率が大きくなる問題、すなわち現行制度を継続した場合に生じる所得再分配機能の低下への対処を求める項目であり、国会で追加された第3項の「基礎年金部分の比率の低下を踏まえて」も同様の主旨である。
この問題への対策の一案として、厚生労働省は2020年12月の社会保障審議会年金数理部会へ新たな試算を示している4。この試算では、基礎年金と厚生年金の削減停止時期が揃うことで再分配機能が維持され、働き方や給与水準、世帯構成に関係なく同じ低下率となっている。具体的な内容はまだ明らかになっていないが、次期改革に向けた大きな論点の1つとなるだろう。
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3 附帯決議の概要は、拙稿「年金改革ウォッチ 2020年6月号~ポイント解説:2020年改正法案の修正と付帯決議」を参照。
4 新しい試算の概要は、拙稿「年金改革ウォッチ 2021年1月号~ポイント解説:年金数理部会と厚労省の新たな試算」を参照。
[執筆者]
中嶋 邦夫
ニッセイ基礎研究所
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任
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