「私は黙っていられなかった!」 バイデンに勝利もたらした女性票
アリゾナ州フェニックスに住むヤズミン・サガスチュームさん(右)。10月撮影(2020年 ロイター/Edgard Garrido)
訪問介護を仕事にするメアリーグレース・バダラさん(48)の母親は82歳。トランプ米大統領がテレビのリアリティショー「アプレンティス」で司会をしていた頃からのファンで、2016年の大統領選では熱狂的な思いで彼に投票した。
だが新型コロナウイルス感染症の流行が世界的に拡大し始めた頃、ホワイトハウスの日々の記者発表を2人でテレビで見ていた時、母親――グレース・ウェバーさん――は、初めて疑問を口にした。「なぜ彼は医療専門家の話に耳を傾けないの」
母親がそう言ったのをバダラさんは覚えている。
その数週間後、母ウェバーさんは胃腸出血で病院に行くことになり、ほどなく新型コロナに感染し1カ月近く人工呼吸器につながれた。そして5月、バダラさんはビデオ通話を通じてウェバーさんに永遠の別れを告げた。敬虔なカトリック教徒のバダラさんの手にそのとき、母のロザリオ(十字架)がしっかりと握られていた。
ペンシルベニア州スクラントン郊外に住むバダラさんは、生まれてこの方ずっと共和党員だった。しかし、自らが大事にするよう教えられて育った「高潔さ、信頼性、責任感」がトランプ氏に欠けていると「悟り」、彼が大統領の座から退くことを望むようになった。大統領選では民主党候補バイデン前副大統領を熱心に応援し、オンラインの選挙広告に顔を出すことまで承諾した。
「この事ではとても黙っていられなかった。母の声を皆に届けたのです」
バイデン氏が大統領選で勝利をたぐり寄せる上では、女性が決定的な役割を果たしたようだ。今回の選挙では投票総数が少なくとも100年ぶりの多さとなったが、その最前線に立ったのが米国の女性だった。エジソン・リサーチの出口調査によると、女性有権者は56%がバイデン氏に投票。男性はこれに対し48%だった。
トランプ氏に対する男性の得票率も、2016年の前回大統領選よりは下がった。しかしバイデン氏勝利の鍵を握ったのは、激戦州でバダラさんのような大卒白人女性の支持票が増えたことだ。バイデン氏が獲得した大卒白人女性の票は、4年前のヒラリー・クリントン氏を上回った。
さらにアフリカ系米国人女性からの得票率は全米的にバイデン氏がトランプ氏より大幅に高かった。それより差は小さいが、中南米系女性でも同様の状況となった。こうした女性票でバイデン氏はアフリカ系および中南米系の男性からの票よりも、リードが大きかった。
セクハラやレイプ疑惑もあるトランプ氏は、コロナ禍前から女性支持者の獲得に苦戦してきた。ただし、16年も今年も、彼が善戦した女性の層はある。大学を出ていない白人女性層だ。
ロイターは多様な意見を把握するため、12州の女性計42人から取材した。対象はアリゾナ、フロリダ、ネバダ、ペンシルベニア、ノースカロライナ、ミシガン、ウィスコンシン、ミネソタ、アイオワ、オハイオ、ネブラスカ、インディアナ。いずれも前回と今回の大統領選で、有権者がトランプ氏支持、不支持の間で揺れた激戦州だ。
意見の違いに関わらず、その女性の多くが、今回の大統領選では初めて政治的な活動に身を投じたと話した。
コロナ禍の最中に失業したペンシルベニア州のプーラ・マカビーさん(44)は、自分にとってこれほど投票意欲が高まった選挙は初めてだと言う。「文字通り、国全体が砕けて燃え尽きるのか、それともついに前進するのかを決める選挙は初めて。私にとって、生まれてから最も重要な投票ではないかと思う」。マカビーさんはバイデン氏に投票した。