「私は黙っていられなかった!」 バイデンに勝利もたらした女性票
ウイルスの影
米国では、女性が多くの面でコロナ禍の矢面に立たされた。米労働統計局によると、職を失った割合は女性が男性よりも著しく高く、子供の自宅学習の面倒を見たり世話をしたりに追われている。シンクタンクによると、一方で、就業を続けられる女性の多くは、医療現場や社会福祉を筆頭に、現場の最前線で働く人々だ。
ロイターの調査によると、投票で重視する要因に新型コロナを挙げた割合は有権者全体でも高かったが、女性は特に際だった。エジソンの出口調査によると、女性有権者の52%が、バイデン氏の方が新型コロナにうまく対処するだろうと答え、トランプ氏の44%を上回った。
歴史をつくる
ウィスコンシン州ミルウォーキーに住むデニス・キャラウェイさん(64)は新型コロナで幾人もの友人を亡くした後、コロナを常に懸念してきた。しかし彼女が投票した一番の動機は、ハリス上院議員を米国初の女性で、そして黒人系の副大統領にすることだった。
バイデン氏がハリス氏を副大統領候補に選ぶと発表した時、キャラウェイさんは泣いてしまったという。リビングに飾った高祖母(祖父母の祖母)の鋭いまなざしの肖像を見詰めながら、彼女は奴隷だった可能性が高いと話すキャラウェイさん。祖先のために、自身と娘たちのためにも、この歴史的な選挙に手を貸さなければと感じたという。
元PR会社の幹部で今は引退しているキャラウェイさんは、黒人女子学生の社交クラブ時代の友人らを通じてウィスコンシン州のバイデン氏陣営とつながり、他のボランティアとともに電話掛けなどの選挙活動に加わるようになった。
黒人女性は圧倒的に民主党に投票する割合が高く、これまでもトランプ氏の強い支持層だったことはない。しかしロイターの調査によると、今年はますますトランプ氏に批判的になった。エジソンのデータによると、黒人女性の91%がバイデン氏を支持し、この割合は黒人男性より11%ポイント高かった。
初めての投票
アリゾナ州ではヤズミン・サガスチュームさん(19)のような若い中南米系有権者がバイデン氏を支持した。彼女は投票日の前日、友達2人と一緒に都市部フェニックスの100軒以上の家に、投票指南のビラを投函して回った。彼女らは今回、初めて大統領選で投票できるようになった年齢層だ。
バイデン氏は全米的に若年層の支持率が圧倒的に高く、18―29歳の層では62%の票を獲得したとみられる。
フェニックス育ちの大学生のサガスチュームさんは、メキシコ出身の母親とグアテマラ出身の父親の間に生まれた5人きょうだいの末っ子。政治には高校時代から積極的に関わってきた。バイデン氏の熱心な支持者というわけではなく、民主党予備選では進歩主義のサンダース上院議員を支持したし、70代の白人男性政治家よりは31歳のニューヨーク州選出のオカシオコルテス下院議員の方にずっと親近感を感じる。
それでもここ数カ月間、若い中南米系有権者に投票を呼び掛けてきた。「私たちはただトランプを落としたいの。それだけが目的」
家族の分断
深い分断が進んだ米国では、選挙戦が進むにつれて個人的な人間関係にもほころびが生じた。
ロイター/イプソスの調査によると、有権者の5分の1が、選挙が原因で家族のだれかと話さなくなったか、友人を失ったと答えた。