最新記事

感染症対策

ファイザーなどの新型コロナワクチン、「有効性90%超」とはどういう意味?

2020年11月13日(金)18時57分

治験を行う側にとっては、十分な規模の治験をすれば95%のハードルを越えるのを確実にできるため、大人数の治験の方が安心だ。しかし、治験の規模のメリットが大きくなるほど、厳密な結果が求められる治験参加者が少なくなる。

ファイザーとビオンテックの治験では、164人が感染したところで最終分析をする計画にしていた。感染者が32人に達した時点での分析を飛ばし、62人になった時点での暫定分析を発表する準備をしていたところ、94人の感染が判明した。

スプートニクVの治験は手順などが入手できないため、詳細は不明。

今回の結果は薬や他の病気のワクチンに援用できるか

末期がん治療薬などに対する一般的な薬品治験では、新しい医薬品のメリットがそれほど明白ではないこともある。余命がわずか数カ月延びたというだけでも、そうした患者にとっては革命的なことがあるからだ。

しかしワクチンの場合、わずかな効果では不十分だ。世界保健機関(WHO)は治験の有効性では理想的には少なくとも70%が望ましいとしている。米食品医薬品局(FDA)は少なくとも50%の有効性を求める。

ファイザーとロシアの今回の有効性はいずれもこれを達成しているし、通常のインフルエンザワクチンに求められる比率も上回っている。米疾病予防管理センター(CDC)は通常のインフルワクチンに対しては40-60%の確率で感染リスクを減らすことを見込んでいる。

CDCによると、ワクチンを1コースで2回投与する方法で、はしかワクチンは97%、水疱瘡ワクチンは90%の有効性が見込まれている。ポリオワクチンは2回投与で90%、3回目も投与すると有効性が100%近くなる。

最終分析で結果が変わるか

ファイザーは9日、今回のワクチンの有効性は最終分析で変わるかもしれないと認めた。ただ、ケンブリッジ大のシュピーゲルハルター教授は、今回の治験の方法なら、94人段階での分析に基づいて考えると、最終分析でもデータはほぼ同じになる可能性が高いとみている。「今回の事例で示されたワクチンの効果は極めて大きい。このあとで数字が多少落ちたり、そのうちに効果がやや低減したとしても、それが大きな程度になるとは考えにくい」とした。

実社会での有効性は

中間結果は有望だが、大量生産への移行が新たなハードルだ。特にファイザーとビオンテックのワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)技術で製造されているため、マイナス70度以下で保管・輸送する必要がある。

このワクチンは1コースで2回の投与が必要で、それも理想的には21日間、間隔を空けることが求められる。この間隔が守られないとワクチンの有効性に影響する可能性がある。

おたふくかぜワクチンの場合、2度目の投与をしないと、90%近いはずの有効性が78%に落ちる。

スイス芸術科学アカデミー会長で疫学者のマルセル・タナー氏によると、免疫システムが弱まっている高齢者や、免疫不全の人に対しては、ワクチンの有効性が変わってくるとみられる。

タナー氏によれば、最適条件での試験で見る有効性(Efficacy)を巡っては「効くかどうか」が大事だが、実社会など、より現実的な条件での有効性(Effectiveness)は「応用できるか」が問題になる。

ただ同氏はファイザーとビオンテックの発表について、「後期治験のこの段階で、最適条件での有効性データが90%なら、これが極めて素晴らしいのは疑いようがない」とも述べた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・フランスのコロナウィルス感染第二波が来るのは当然だった・・・・
・巨大クルーズ船の密室で横行する性暴力



20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中