最新記事

日本人が知らない ワクチン戦争

日本人が知らない新型コロナワクチン争奪戦──ゼロから分かるその種類、メカニズム、研究開発最前線

AN UNPRECEDENTED VACCINE RACE

2020年10月20日(火)17時00分
國井 修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

magSR201020_Vaccine2.jpg

モデルナ社のmRNAワクチンは臨床試験の最終段階に(米メリーランド州) AMANDA ANDRADE-RHOADES-THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES

また、COVAXでは20億回分のワクチン接種を目指して共同購入するため、各国が直接交渉するより価格を下げやすい。現時点で企業が設定しているワクチン価格は、例えばモデルナは1人分2回接種で64~74ドル、ファイザーとビオンテックのワクチンだと1人分2回接種で39ドルだが、COVAXでは1回分3ドルで中低所得国に提供する計画だ。

10月9日時点で、富裕国の77カ国・地域がCOVAXに参加し、これにより低中所得の92カ国へのワクチン普及を促進する。中国も10月9日に参加を発表したが、執筆時点でアメリカ、ロシアは不参加のままだ。それでもCOVAX参加国は世界人口の8割以上を占め、COVAXの立ち上げ資金として約17億ドルが集まった。ただし、2021年末までに20億人にワクチンを送り届けるには約160億ドルを要し、いまだに大きな資金ギャップがある。

この資金ギャップが埋まらなければ、また埋まっても20億人より多くにワクチンを届けるには、発展途上国は実質的に自前でワクチンを購入しなければならない。ここで特許料によるワクチン価格が問題となる。

現在、緊急事態や公共の利益のために特許権の制限を可能にする「TRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)」の適応や、製薬会社との交渉を引き受けて特許権を一括管理し、ジェネリック(後発医薬品)メーカーなど第三者も製造できるようにする「医薬品特許権プール(MPP)」などが検討され、その動向が注目される。

仮に効果的なワクチンが開発され、資金が集まっても、乗り越えるべき課題は少なくない。

1つ目は、早期において限られたワクチンを誰に接種するのかという課題だ。最近、イギリスの諮問委員会が政府に示した助言では、優先すべきワクチン接種対象者として医療従事者や介護施設などの介護者、さらに死亡リスクの高い高齢者や基礎疾患(呼吸器・循環器などの慢性疾患、肥満、糖尿病、癌など)を持つ者が挙げられた。国によって、感染・死亡リスクの高い集団、感染・死亡した場合の社会的影響の大きい集団が異なることもあるため、早めにそれらを把握し、優先順位を決めておく必要がある。

2つ目は、ロジスティクス。今回候補になっているワクチンの中には、接種するまで2~8度での冷蔵保存、中には希釈して配分するまでマイナス70度の冷凍保存が必要なものもある。これには「コールドチェーン」(低温物流)が必要で、製造工場から各国の中央倉庫、さらに地方都市、農村の診療所または地域にまで送り届け、最終的に予防接種をするまで保冷し続けなければならない。灼熱の太陽の下、電気自体が通っていない農村もある。車道がなければ山道を歩いて数日かかる村にまで届けなければならない。

ワクチンが開発されなかったら

3つ目は、ワクチン忌避。WHOが挙げた2019年の「世界の健康に対する10の脅威」の1つにもなっている。これはワクチンの誕生以来、また世界中に横たわる根深い問題で、中には反ワクチン運動として、ワクチン接種の拒否や社会からの駆逐を訴える集団さえある。その主張は「自然に反する」「副反応で命が危ない」「自閉症や不妊になる」などだが、科学的に疑わしい研究などの主張や作り話、陰謀論、誤情報などが広がることもある。日本も例外ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ウーバー、自動運転の充電基盤に1億ドル超投資 ロ

ビジネス

NZ中銀、次の金利操作は引き上げの可能性が高い=シ

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米ハイテク株高を好感 一時5

ビジネス

米WD、サンディスク保有株一部を32億ドルで売却 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方...勝利のカギは「精密大量攻撃」に
  • 4
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 5
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 9
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではな…
  • 10
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中