「有罪判決を受ける理由は...おまえが黒人だから」冤罪で死刑囚となった黒人の物語
とはいえ、それは理屈でしかない。なにしろ、ここにたどり着くまでに30年の歳月がかかってしまったのだ。しかも、こうした現実があった(そして今も、ある)ということ自体があまりに衝撃的だ。
奴隷制が敷かれていた時代の話だというなら、まだ分からないではない。だが、ヒントン氏の死刑判決は1986年なのだ。1986年と言えば、ヒップホップグループのRun-DMCがロックバンドのエアロスミスと共演して大ヒットを生み出し、白人と黒人の壁を破ってみせた年だ。
当時はそれを快挙だと感じたものだが、同じ頃にこういうことが起きていたなら、Run-DMCのことしか知らなかった私には、物事の断片しか見えていなかったことになる。
それどころか、いまだに当時と大差ないことが起こっているのだ。だから、「いま起こっていること」の根源的な部分を学ぶためにも、本書を読んでみるべきだと私は思う。
なお訳者も記しているように、YouTubeには「Anthony Ray Hinton Exonerated After 30 Years」という動画が上がっているので、本書を読み終えた後にでもぜひ見てほしい。
『奇妙な死刑囚』
アンソニー・レイ・ヒントン 著
栗木さつき 訳
海と月社
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。
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