最新記事

インタビュー

百田尚樹と「つくる会」、モンスターを生み出したメディアの責任 石戸諭氏に聞く

2020年6月17日(水)12時00分
小暮聡子(本誌記者)

Newsweek_0604-thumb-720xauto-160731.jpg

本誌の特集「百田尚樹現象」(2019年6月4日号) Satoko Kogure-Newsweek Japan

――本誌で特集した際、石戸さんは記事をこう結んでいた。「百田尚樹とは『ごく普通の感覚を忘れない人』であり、百田現象とは『ごく普通の人』の心情を熟知したベストセラー作家と、90年代から積み上がってきた『反権威主義』的な右派言説が結び付き、『ごく普通の人』の間で人気を獲得したものだというのが、このレポートの結論である」と。

面白いのはその先で、「新しい歴史教科書をつくる会」についての第二部が加わった本書では、第一部の終わりで石戸さん自らがこの「結論」を覆してしまった。「私もまた百田現象とつくる会現象の類似点に着目した......だが、一連の取材を終えてそのアプローチは間違っていたことに気づかされた。百田現象は『新しい現象』である」と。

これには驚いた。えー、特集の結論、間違ってたの!?と(笑)。

続きはまるでミステリーを読んでいるようで、「きれいに連続しているはず」だった、つくる会と百田現象が実は「断絶」していた、という第二部に突入する。

第二部で90年代後半の「新しい歴史教科書をつくる会」を支えた中心的人物、藤岡信勝氏、小林よしのり氏、西尾幹二氏に取材をしに行って、何が分かったのか。


結論から言うと、百田現象がつくる会から連綿とつながっていた、という見方は間違っていたということを書いている。表面的な主張が似通っているつくる会と百田現象を、歴史的に連続した流れの中に位置付けるのが社会学者などの見方で、僕もそういうことだろうと特集時点では思っていた。

だが実はつくる会と百田現象の間には明確な断絶があることが、第二部の取材をする中ではっきりした。つくる会と百田現象につながりを見出すのではなく、断絶のほうこそに本質があるのでは、と考えた。

文芸評論家の加藤典洋さんが晩年に、百田作品について丁寧な論評を残している。加藤さんは百田論の中で、イデオロギーを「着脱」できるという意味で「新しい作家」だと見事に表現している。僕のアプローチは加藤さんの影響を受けている。

百田さんにも右派的なイデオロギーがあることはあるが、小説を面白くしたり人を感動させたりするためなら自分のイデオロギーを容易に「着脱」できる。読みやすくするためにはいろんなことを犠牲にでき、イデオロギーよりも物語としての感動や面白さを優先する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、東部要衝都市を9割掌握と発表 ロシアは

ビジネス

ウォラーFRB理事「中銀独立性を絶対に守る」、大統

ワールド

米財務省、「サハリン2」の原油販売許可延長 来年6

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中