SNSで「医療関係者は国の英雄」盛り上がるインドネシア 背景に犠牲者55人という苛酷な現実
医師看護師ら55人が院内感染で死亡
それでもどこか別の世界の出来事のように考えていたインドネシア人の新型コロナウイルスに対する感覚が大きく変わったのが「医療関係者の死者相次ぐ」というニュースだった。主要雑誌「テンポ」は4月初旬に誌面1面を使って死亡した医療関係者の顔写真を並べて掲載して医療現場の実情を伝えた。
さらに4月17日誌面でインドネシア医師協会(IDI)理事とのインタビューで「医療関係者を感染から守る防護服などが絶対的に不足している」ことを明らかにし、防護服がない場合は雨合羽やビニールのゴミ袋を代用して院内感染防止に務めている医療現場の過酷な現状が伝えられた(関連記事「新型コロナウイルス院内感染で医療関係者24人が死亡 インドネシア、防護服など不足で危機的状況」)。
その後も医師、看護師ら医療関係者の感染そして死亡は増え続け、5月の最新情報では医師38人、看護師17人の合計55人が犠牲となっている。
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国の中でインドネシアは5月28日の時点で感染者数は2万4000人を超え、シンガポールの3万3000人に迫る2番目の多さとなっている。だが、感染死者に関しては1496人となっており、域内では2番目のフィリピン(921人)を約500人以上上回る最悪の状況となっている。
ASEANの他国が医療関係者の感染死者数を必ずしも明らかにしていないこともあるが、医療関係者の55人という犠牲は最多ではないかとみられている。
こうした医療現場で続く医師や看護師の献身的な医療行為にインドネシア人の心が動かされた。ネット上などの掲げられる動画や写真には「皆さんを守るために私が病院で仕事をしている」などと書かれた紙を掲げた完全防護服着用の医師、看護師が頻繁に登場するようになった。
イスラム教の断食と重なり支援広がる
ちょうどこの時期が4月24日から1カ月続いていたイスラム教徒の重要な行事「断食月」とも重なり、敬虔なイスラム教徒の医療関係者は日中飲まず食わずの状態で治療に当たっていることなども伝えられた。
そのため各地の病院には「1日の断食の終わりに是非食べてほしい」と飲食物の差し入れなどが相次ぎ、中には「医者や看護師は体を壊すので断食をせずに治療に専念してほしい」と訴える市民の声も伝えられた。
断食の目的のひとつに「飢えに苦しむ人々の苦労を実感し、同時に与えられる飲食物に感謝する」というのがあるそうだが、「苦しむ感染者を救う仕事に従事している医療関係者が飢えを実感する必要はない」とイスラム教徒の間でも同情が広がった。
断食期間中、女性の生理や入院、急病などの止むを得ない「緊急用件」に相当する理由がある場合は断食を中断して後日その日数分を埋め合わせすればいい、という柔軟な規定もあることから新型コロナ感染治療にあたる医療関係者にそうした「断食の繰り越し」が呼びかけられたのだ。