最新記事

感染対策

ドイツで、BCGワクチンの新型コロナウイルスへの効果を検証する臨床試験はじまる

2020年5月12日(火)18時50分
松岡由希子

BCGワクチンは新型コロナウイルスに対抗する免疫系を強化するのか Media Raw Stock-iStock

<ドイツでは、遺伝子組み換えBCGワクチン「VPM1002」が、新型コロナウイルスに対抗する免疫系を強化するのか検証がすすめられている......>

「VPM1002」とは、独マックス・プランク研究所が開発した遺伝子組み換えBCGワクチンである。ドイツ連邦保健省ポールエンリッヒ研究所(PEI)の承認のもとで実施されている第3相試験では、「VPM1002が新型コロナウイルスに対抗する免疫系を強化するのか」について、検証がすすめられている。

●参考記事
BCGワクチンの効果を検証する動きが広がる 新型コロナウイルス拡大防止に

医療従事者1000名を対象に、VPM1002の臨床試験を実施

VPM1002は、既存のBCGワクチンに比べて安全で、効果が高いとされている。マウスを使った実験では、VPM1002が、結核だけでなく、気道のウイルス感染を予防した。インフルエンザに罹患したマウスのうち、VPM1002を接種したマウスは既存のBCGワクチンを接種したマウスよりもインフルエンザA型のウイルス量が少なく、肺への損傷は軽微であった。

これは、VPM1002がマウスの免疫系を活性化したことによるものとみられる。それゆえ、研究チームでは、「VPM1002によって、新型コロナウイルスのようなウイルス感染を減衰できるのではないか」と考えている。

独ハノーバー医科大学(MHH)の研究チームでは、ドイツ北部のハノーバー、北端のボルステル、ドイツ中部のエアフルト、ドイツ南部のミュンヘンの4カ所で新型コロナウイルス感染症患者の治療にあたる医療従事者1000名を対象に、VPM1002の臨床試験を実施。2020年4月下旬から5月上旬にかけて被験者にVPM1002を接種している。

この臨床試験を主導するハノーバー医科大学のクリストフ・シンドラー教授は「理論上、ワクチン接種によって、新型コロナウイルス感染症を発症する確率は下がるはずだ」と説く。VPM1002を接種した被験者は、新型コロナウイルスへの免疫を獲得するわけではないが、ウイルス感染に対して強化された免疫細胞のおかげで、新型コロナウイルスの感染から予防しやすくなる可能性がある。

また、ワクチン接種によって非特異的免疫反応が改善され、新型コロナウイルスに感染したとしても、新型コロナウイルス感染症の症状は悪化しづらくなると考えられている。研究チームは、60歳以上の高齢者1800名を対象に、同様の臨床実験を行う計画だ。

VPM1002の効果が十分に検証されれば、新型コロナウイルス感染症の効果的なワクチンが見つかるまでの橋渡し的な役割を担えると期待されている。また、BCGワクチンは、結核予防として乳幼児用に生産され数に限りがあるが、VPM1002はライセンス供与されているインドのワクチンメーカーで短期間に大量に生産できるとも言われている。

オーストラリア、スペイン、オランダの医療従事者1万人に臨床試験

世界保健機関(WHO)は、4月20日、「BCGワクチンが新型コロナウイルスの感染を予防することを示す証拠はない」との見解を明らかにしている。その一方で、新型コロナウイルス感染症に対するBCGワクチンの効果を検証する臨床試験は、ドイツ以外の国でもすすめられている。

豪メルボルンの小児医療研究所「マードック・チルドレンズ・リサーチ・インスティチュート(MCRI)」では、3月27日、この臨床試験に着手し、すでに豪州の医療従事者2500名以上が参加。5月には、マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツ夫妻が創設した慈善基金団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」から1000万豪ドル(約7億円)の助成金を得、豪州のほか、スペイン、オランダの医療従事者1万人にまで被験者の規模を拡大させて、この臨床試験を実施する方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ハマス最高指導者死亡とイスラエル閣僚に通知、軍は確

ビジネス

ECB、0.25%連続利下げ 物価抑制から成長保護

ビジネス

米新規失業保険申請、1.9万件減の24.1万件 予

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で包囲強化 子ども含む28人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 決戦前夜の大逆転
特集:米大統領選 決戦前夜の大逆転
2024年10月22日号(10/16発売)

米大統領選を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」。最後に勝つのはハリスか? トランプか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 2
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調査でここまで「謎」が解けた
  • 3
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすごく退屈そう」な様子の動画が話題 「なぜこんなことに...」
  • 4
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 5
    谷間が丸見え...マライア・キャリー、ゴルフ中の「グ…
  • 6
    台風の後、河川敷のテントに居られなくなった女性ホ…
  • 7
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシ…
  • 8
    日本の男性若年層の手取り年収は、過去30年で50万円…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    「ハト派の石破新首相」という韓国の大いなる幻想
  • 1
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明かす意外な死の真相
  • 4
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思…
  • 5
    「メーガン・マークルのよう」...キャサリン妃の動画…
  • 6
    「メーガン妃のスタッフいじめ」を最初に報じたイギ…
  • 7
    東京に逃げ、ホームレスになった親子。母は時々デパ…
  • 8
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリ…
  • 9
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 6
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 7
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 8
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃がこれまでに着用を許された、4つのティ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中